5495人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
1.堂道、再び!
「玉響さん、玉響さん!」
羽切が小走りにやって来たのは、始業してすぐのことだった。
すっかり面々の変わってしまった営業部は、羽切にとって感慨深き古巣ではないらしい。特に辺りを懐かしむ様子もなく、糸のデスクへ一目散にやってくる。
一年半前、羽切は経営企画室に異動になり、そして昨秋に昇進した。異例のスピード出世で、いまや花の経営企画室長様だ。
営業部員も多くがその部署に憧れる。
自信の表れか、最近の羽切は、なんというか『輝き』が増して眩しく、つい目を細めたくなるほどだ。
「羽切室長、直々にどうされました?」
「速報! 速報!」
破顔した羽切は、かつて直属の上司だった頃を思わせる人懐っこい笑顔で言う。
「えっ、まさか!」
糸は思わず大きな声になり、現一課の課長である飯田に睨まれた。
しかし、羽切の一課時代の部下でもあるので、糸の隣に羽切を認めた瞬間、きまずい会釈にかわった。
「まだ秘密なんだけど」
しー、っと身を小さくして人差し指を立てる羽切に、糸もつられて声は小さく、しかし目はこれ以上なく輝かせて言った。
「ついに!?」
「うん! 玉響さん!」
「わ、私、今日、午後から半休取りますっ!」
これは、部下に手を出すパワハラ上司のその後の話である。
最初のコメントを投稿しよう!