忍び寄る影

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「そうですね。本当に捨て犬だったら、その時は聖さんが新しい飼い主になればいい」  ユウはあっさりと肯定するが、しっかりと釘も刺す。 「それを確かめる為にも、マンションの敷地内で犬を保護した事はキッチリ通知してくださいね。結果が出るまでは、その犬はこっちで預かりましょう」  そう言うと、ユウは真壁のリードに手を伸ばそうとした。  すかさず、聖が牽制する。 「ちょっと待て。ワン公はまだメシを食ってない。ひとまず、それを平らげてからでもいいんじゃないのか?」 「……それもそうですね。さぁ、お食べ」  促したが、犬は項垂れたまま、仔犬のようにキューキューと鳴いている。 「? もしかして、お腹が空いてないのかな?」 「そんなはずは……口にしたのは水だけで、今朝からまだ何も食べてないんだ。さすがに腹は減っている頃だろう」  マンションを出るまでは、とても元気だった。  南青山で、ペット同伴OKの店があるらしいから、散歩ついでに一緒にランチにしようと言ったら、尻尾をクルクルと振って楽しそうに飛び跳ねていた。  その時は、具合が悪そうな様子はなかったが……。 「そんなに元気だったのが、今はこうだと? 体調の急変は怖いですね……」  ユウも、聖同様に今まで犬を飼った事がないので、犬の生態はよく分からないというのが本当だ。もしも犬が病気だったとしたら、大変だ。 「聖さん。とりあえず車を手配して、この犬を獣医に連れて行って診てもらいませんか?」 「そうだな」  聖も不安そうな表情になると、急いでスマホを取り出すが。 「――――ダメだ。真壁が出ない」 「肝心な時に、ホント役に立たない人ですね」  スッパリ言い切った所、犬が抗議するようにワンっと吠えた。 (なんてひどい事を言うんですか! オレは今こんな姿になっているんですから、電話になんか出られる筈がないでしょう!?)  だが、ユウは違う意味に取ったようだ。 「犬も、苦しいと訴えているようです。仕方がない、タクシーにしましょう」
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