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Ⅰ
日曜日の13時ちょうどに、約束通り広沢くんからの電話があった。
電話を切ったあとすぐに下に降りていくと、昨日の別れ際と同じ場所で広沢くんの車が待っていた。
「おはようございます」
私に気が付いた広沢くんが、運転席から降りてくる。
「おはよう……」
昨日は半分仕事だったこともあってジャケットを着て仕事向きの格好をしていた彼だったけれど、今日は完全に私服姿だった。
スーツを着ているときは見た目にそれほど年齢の差が大きく出ない気がするけれど、私服姿の広沢くんは年齢相応の、20代半ばのお洒落な若い男の子だった。
少し気後れして突っ立っていると、広沢くんが助手席のドアを開ける。
私は爽やかに笑いかけてくる彼の顔を見たあと、一度ゆっくり瞬きをした。
何を気後れしているんだろう。こんなの、初めから想定内なのに。
今日は、昨日のお礼として出かけて夜ご飯をご馳走するだけなのだから。
見た目はいつもと違ったって、広沢くんは会社の部下なのだ。
「ありがとう」
いつもの冷静な気持ちを思い出して広沢くんに笑いかけると、彼の車の助手席に乗り込んだ。
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