クローバーとタンポポの結婚式

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 ある日のことです。メリアの父親が行商に出向きました。メリアの父は自分がデザイン・縫製した服を数着作っては街へと売りに行くのです。とびきり愛らしく見える子ども服は知る人ぞ知る人気でした。  「メリア、大変だ! お貴族様のご息女が俺の服を気に入ってくださった! 専属で作ってほしいというんだ!」  「ええ!? 父さんの服ならあり得るとは思っていたけど、本当に?」  「見てくれ、最上級の布と前払いで金貨5枚だ! ああ、俺たちは金持ちになるぞ!」  金貨など村で過ごしていては見ることがありません。まばゆいほどに光る金貨はとても綺麗でしたがメリアは少し怖いと思いました。父親の目がぎらぎらと今まで見たことのない風に光っていたからです。  メリアの父はご息女のドレスにかかりきりになりました。途中、メリアが必死で説得して先に依頼されていた村の子ども達の晴れ着は作られましたが、可愛いけれど、何か今までと違う気がしました。父親の頭の中はお金と名声でいっぱいになっていたのです。そして、すべてが変わり始めました。  メリアの父は大きな家を建て、貴族御用達の服飾店として村中に自慢するようになりました。まるで自分が貴族になったように振舞い、村の人達を見下し始めたのです。あまりの変わりように村人たちは羨むよりも退きました。  「メリア、お前も綺麗な服を着て家で花嫁修業をするか仕事を覚えなさい。貧しいやつらと関わるんじゃないぞ」  「父さん! おかしいわ! 私達は貴族じゃないのよ!?」  「いいや、貴族になるんだ! 貴族の覚えめでたく俺の技術は特別と認められたんだ。村人とは違う!」  メリアがどんなに意見しても父親は聞かず、しまいにはメリアの外出を禁じて閉じ込めてしまいました。父親は信じて疑わなかったのです。きれいな服、たくさんの食べ物、大きな家。今までの村の暮らしをするよりも幸せだと。もちろん、メリアは幸せではありませんでした。どんどん笑うことがなくなりました。意見することもなくなりました。そんな気力もなくなってしまったのです。言われるがまま綺麗な服を着て、飾り物のように貴族にも会いました。食も細くなり、顔色は青白く、メリアが倒れて初めて父親は慌て始めたのでした。やっと気付いたのです。もう何年も娘の笑顔を見ていないことに。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加