好きだよ(嘘)

4/14
前へ
/14ページ
次へ
 美音とは逆に、僕は相当頑張ってこの学校に入った。でも無理はよくないね。理数系が壊滅的にアウトなのが早々に判明し、着いてくだけで精一杯。都合のいい夢ばかり見るのは現実逃避なのかも。  それでも僕は、変な夢が楽しみになってきてるんだ。さて今夜は……  期待して寝たら、今夜の夢が一番変だった。なんと美音が初登場の激レアドリーミング。しかも泣きそうじゃないか? 「景太、私あなたに酷いこと……」 「普段以上に?」 「あなたに……呪いをかけてるの。今この夢で」  僕は最近、夢を夢と認識する能力が開発され始めている。この時も夢とわかったのでからかう余裕があった。 「呪い?人形に襲われたり、同じ時間を繰り返すやつ?」 「全然違います。これはね……」  妙にリアリティある表情と口調。 「景太が誰かに『好き』って告白すると、その相手が景太のことを忘れてしまう呪いなの」  ちょっとややこしいが、命に関わるものではない。 「忘れる?告白を?」 「景太に関する記憶が全部消えて、初対面みたいになると思う」  いややっぱダメだキツイ。人間ってのは程度の大小こそあれ承認欲求の塊だ。知人、まして好きな人に存在ごと忘れられればクリティカルダメージを負うだろう。  だが待て。僕は非モテで、誰かを勝手に好きになる身の程知らずでもない。事実上問題ないぞ。 「別にいいよ。メガネヲタクの恋愛なんて都市伝説だし」 「わかんないでしょ!景太にす、好きな人ができたら大変なことに」 「ないない。至高は虹にこそ存在し得るもので、惨事に興味ないから」  美音はしばらく俯いていたが、顔を上げると怒っていた。 「何よバカ!せっかく忠告してるのに!知らない!」 「呪っておいて忠告って、ヴィラン(悪役)のやり口だぞ」 「ふん!ベーだ!メガネヲタク!」 「だからそう言ってんだろ、あっ待て!」  夢ってやつは、いつも解決する直前に目が覚めるんだ。  その朝。夢なのに後味が悪い上、美音はいつもの元気がない。リアルで喧嘩したわけではないが、少しの間なんとなく距離ができてしまった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加