好きだよ(嘘)

5/14
前へ
/14ページ
次へ
 数日後。帰ろうと玄関に行くと美音がいた。幼馴染だから家も近所。タイミングが合えば揃って登下校するのは日常だが、今日は久しぶりだ。様子も気になってたしちょうどいい。 「美音、最近元気ないね?」 「うんありがと、体は大丈夫だよ」  マシンガン無駄トークが炸裂しない。やはり変だ。 「あの、さ。景太、最近変な夢を見るって言ってたよね」 「アホすぎて3日くらいで忘れるけどね」 「そう?私の夢なんて見ることある?」  あるも何も、気がかりはまさにそれ。美音の呪いの夢だ。 「……あった」 「いつ?ねえいつ?」  美音が前のめりになる。 「先週」 「ひょっとして火曜日?」 「そうだ。学食カレーの日だった」 「私、変なこと言ってたでしょ」  ああ。夢でそりゃあ変なことを言っていた。だがそれすら遥かに超えて変なのは、現実の美音がという事実だ。 「うん。変だった」 「やっぱり……ごめんね」  美音のつぶらな瞳から涙があふれる。焦るわ。 「ちょ、さっきから何を?」 「夢でね、呪いをかけちゃったの」  呪いというワードで、決定的に夢と現実がシンクロする。クラッと来た。あり得ない。 「僕が告白すると相手が僕を忘れる?」 「そう」 「いやいや突っ込みどころ満載で、落ち着こう、ははは……」  美音は顔を抑えてすすり泣いている。なんてことだ。ガチだと言うのか。 「本当なの?」 「私も最近変な夢を見ることが増えたの。その時は景太と同時に同じ夢を見たはず。私が内容を知ってることが証拠」  キツイ悪戯が好きな美音だが、誰かを傷つける嘘はつかない。 「これじゃ景太、恋愛できないよね」 「解く方法は?」  美音は小さな口を半開きにし、精一杯「わからない」と呟く。「念のため誰にも告白しないで」と釘を刺され、僕らは互いの家の手前の三叉路で別れた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加