2. 再会

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 でも、彼女の白い(かんばせ)が、そしてその青い瞳が、私に向けられることはない。  あの視線の先には、何があるんだろう。自分を描いてくれている画家の背後に、彼女は何を見ているのだろう。  こちらには決して向けられない、真摯でひたむきな、その眼差しで。  あの眼差しに見つめられたいと、画家は思わなかったのだろうか。自分が彼女を見つめているのと同じように、あの青い目で見つめ返されたらなら、と――  そこで、我に返った。  しまった! 没頭しすぎた。  時間が分からない。どのくらい、この絵を見ていたんだろう。  と同時に、左隣からの視線に気付く。  振り向けば、上体を屈めて大腿に肘を置き、組んだ両手に片頬を預けたイチが、こちらを見ていた。  明るい茶髪の下の黒瞳の、真剣な眼差し。  それは、記憶にない強さ。こんな視線は、知らない―― 「おかえり」  出し抜けにかけられた言葉と、それまでの視線の強さが嘘のような優しい笑みに、私は目を瞬かせた。  一瞬前のイチの表情は、幻?  そんな考えが頭を駆け抜ける。でも、その疑念を深く考える前に、押し寄せる現実を認識して私は大いに慌てた。  イチがまだ隣にいるとは思っていなかった。というか、イチが隣にいたことを、今の今まで綺麗さっぱり忘れていた。そもそも、今何時?! 「相変わらずだな、ほんと。おかえり、眠り姫」  イチが、半ば苦笑するように微笑む。そのセリフの後半は、かつて一緒に絵を見に行った私に、イチが毎回のようにかけた言葉そのものだ。 「……ただいま」  昔から成長していない、と暗に言われたようで癪だけれど、残念なことに返す言葉が全く思い浮かばない。 「自分から戻ってきてくれて良かった。流石にあと二分遅かったら声かけようと思ってた」  立ち上がり、その場で大きく伸びをしながらイチが言う。 「……イチ、今何時?」 「ん? 閉館三分前。多分、館内残っているのは俺達が最後。そろそろ出ようぜ」  その言葉に、私は一も二もなく頷いた。
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