2. 再会

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 美術館を出ると、太陽は西の空に沈み掛けていた。 「はぁ、楽しかったー」  やっぱり、美術館に行った後の充足感は堪らなく好き。我ながら、よく二年間もこれから遠ざかっていられたなと思う。  二年間。  その数字の意味に気付き、それを事実として冷静に受け止めている自分に驚く。  あの全身を苛む胸の痛みは、もう湧いてこない。今、胸を占めるのは、あの貴婦人の絵への感動と憧憬――。 「そりゃ良かった。誘った甲斐があったな」  そこへ、一足遅れて出てきたイチが来て、隣に並んだ。  さっきの独り言、聞かれていたのね。  そのまま、特に示し合わせたわけでもなく、自然と二人で並んで敷地正門に向かって歩き出す。あたりは主に特別展の建屋を出入りする大勢の人で混雑していた。 「今日はありがとう。でも、ごめんね」 「何が?」  予想外の返答に振り仰いでみれば、イチは心底不思議そうな顔でこちらを見ていた。 「いや……長々待たせたなぁと」 「ああ、最後の絵の前での没頭か。分かってて誘ったんだから気にするな。寧ろ、お前が変わってなくて俺は嬉しいよ」  カラリとしたイチの言葉にホッとする。と同時に、その秀麗な顔に浮かぶ微笑に、思わず見惚れた。  見慣れないオレンジブラウンの短髪。  その下の、私が良く知る幼馴染の黒瞳。  絵の前で見た、私を射抜くような、あの真摯な眼差しが脳裏をよぎる。  不意に、イチの手が伸ばされた。そして、嫌らしさを全く感じないさりげなさで、私の腰を軽く引き寄せる。 「イチ!?」  驚く私の横ギリギリを、団体がはしゃぎながら通り過ぎていく。イチは、ぶつからないようにエスコートしてくれたらしい。 「あ、ありがとう」 「おぅ。あの特別展、人集めてんな。ここまで混むとは予想外」  美術館の本館や特別展は、まだ閉館していない。それでも、正門付近はなかなかの混雑振りだ。  文字通り周囲から頭一つ抜け出たイチが、素早い確認で人混みを避けつつ歩きやすいルートに誘導してくれる。腰に添えられた手は、そのままで。
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