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さっきから時折発揮される、イチのエスコート。嫌な気はしないけれど、正直気恥ずかしい。イチがこんな事をする大人になるなんて、全く想像していなかった。
本当にこれは、私の知る幼馴染?
「――ねぇ、キミ、本当にイチ?」
思わず、問いがこぼれた。
藪から棒な問いに、イチはくるりと目を丸くし、
「へえ。ゼロ、俺を疑うのか」
次の瞬間、悪人面としか言いようのない不敵な笑みが、その端正な顔を彩る。
「それなら仕方がない。二人だけの秘密だった黒歴史、今ここで真相を叫ぶか。確か小三の時だっけ、ウチの親父の薔薇を――」
そのセリフに、一気に血の気が引く。
それはもしや、墓まで持って行くと決めた、二人の秘密!
「え、嘘ちょっと待って! 違う、そうじゃない疑ってない! 最初にも言ったけど、イチの見た目や言動が変わって、じゃない、成長しててビックリしたって意味!」
ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべるイチに、慌てて言い募る。
前言撤回! 見た目はともかく、中身は絶対に私が良く知るイチだ!
「お? じゃあ、最初に言われた『随分変わった』は、良い意味に解釈して問題ないな」
「うん!」
本当に成長した大人はこんな脅迫しない気もするけれど、兎に角すべからく同意する。
「それなら良かった」
ワルそうな笑みは途端に引っ込み、満足気で邪気のない笑顔が取って代わる。
ああ、かつて幾度となく見たこの切替の速さ。確かにイチだ。
「ゼロに正しく認識してもらえたことだし、少し時間早いけど、再会祝して飯で――」
と、イチが言いかけたところで、私のポシェットの中でスマートフォンが強く震えた。どうやら電話だ。
「あ、ごめん」
「いや、大丈夫。出た方が良くないか?」
イチにうながされ、私はその場でスマートフォンを取り出し――メッセージアプリやメールの受信通知の多さと、着信画面の名前に慄いた。
そういえばこの週末、今の今までスマートフォンのチェックを全くしていなかった。
マズい。非常にまずい。でも、電話に出ないわけにはいかない。
私の腰から手を離し、少し距離を取ってくれたイチに目で感謝して、意を決して通話ボタンを押す。
「もしもし、かず……」
「零! 無事? ちゃんと生きてるの?!」
予想通り、耳にあてがわなくても平気なくらいの大音量な女性の声が、スピーカーを震わせた。
(2. 再会 了)
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