2. 再会

9/9
前へ
/178ページ
次へ
 さっきから時折発揮される、イチのエスコート。嫌な気はしないけれど、正直気恥ずかしい。イチがこんな事をする大人になるなんて、全く想像していなかった。  本当にこれは、私の知る幼馴染? 「――ねぇ、キミ、本当にイチ?」  思わず、問いがこぼれた。  藪から棒な問いに、イチはくるりと目を丸くし、 「へえ。ゼロ、俺を疑うのか」  次の瞬間、悪人面としか言いようのない不敵な笑みが、その端正な顔を彩る。 「それなら仕方がない。二人だけの秘密だった黒歴史、今ここで真相を叫ぶか。確か小三の時だっけ、ウチの親父の薔薇を――」  そのセリフに、一気に血の気が引く。  それはもしや、墓まで持って行くと決めた、二人の秘密! 「え、嘘ちょっと待って! 違う、そうじゃない疑ってない! 最初にも言ったけど、イチの見た目や言動が変わって、じゃない、成長しててビックリしたって意味!」  ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべるイチに、慌てて言い募る。  前言撤回! 見た目はともかく、中身は絶対に私が良く知るイチだ! 「お? じゃあ、最初に言われた『随分変わった』は、良い意味に解釈して問題ないな」 「うん!」  本当に成長した大人はこんな脅迫しない気もするけれど、兎に角すべからく同意する。 「それなら良かった」  ワルそうな笑みは途端に引っ込み、満足気で邪気のない笑顔が取って代わる。  ああ、かつて幾度となく見たこの切替の速さ。確かにイチだ。 「ゼロに正しく認識してもらえたことだし、少し時間早いけど、再会祝して飯で――」  と、イチが言いかけたところで、私のポシェットの中でスマートフォンが強く震えた。どうやら電話だ。 「あ、ごめん」 「いや、大丈夫。出た方が良くないか?」  イチにうながされ、私はその場でスマートフォンを取り出し――メッセージアプリやメールの受信通知の多さと、着信画面の名前に慄いた。  そういえばこの週末、今の今までスマートフォンのチェックを全くしていなかった。  マズい。非常にまずい。でも、電話に出ないわけにはいかない。  私の腰から手を離し、少し距離を取ってくれたイチに目で感謝して、意を決して通話ボタンを押す。 「もしもし、かず……」 「(れい)! 無事? ちゃんと生きてるの?!」  予想通り、耳にあてがわなくても平気なくらいの大音量な女性の声が、スピーカーを震わせた。 (2. 再会 了)
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加