3. 友人

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 昨日までの胸の痛みは、展覧会以降、ビックリするくらい感じなくなった。  あの痛みに苛まれていた時間は、まるで夢だったかのよう。  今、連休のことで思い出すのは、あの貴婦人の碧眼。そして―― 「それにしても、(れい)の幼馴染、イチさんだっけ? 会ってみたかったな」  イチの明るい髪が脳裏でチラつくのと、和葉(かずは)がイチを話題にするのが同時だった。  一瞬、意識がダダ漏れていたのかと胸がはねる――けれど、和葉には気付かれなかったようで、私は殊更に平然と頷いてみせた。 「それ、向こうも言ってた。『零の親友を務められる度量の広さの持ち主に、おいそれと会えるものじゃないし』って」  昨日、和葉が来る場に本当はイチもいるはずだった。ところが和葉を待つ間、今度はイチが友人から火急の呼び出しを受けてしまい、彼女が来る前に帰る羽目になったのだ。 「さすが幼馴染さん、分かっていらっしゃる。機会があったら宜しく伝えて」  和葉が灰色の双眸を細めてにっこりと笑う。いつもながら、そのまま口紅のCMに起用されそうな笑顔だ。  そんな彼女に、口だけはちょっと反論を試みる。 「何だろう、いまいち釈然としない」 「零はすぐ連絡取れなくなるからね。しかもその場合、高確率で色々やらかすし。フォローも結構大変なのよ」 「……駄目だ、身に覚えがありすぎる。私、和葉のこと崇め奉るべき?」 「ホホホ、良きにはからって」  勝利の笑みで高らかに宣言して、和葉はランチセットのデザートアイスにスプーンを入れた。どうやら反省会は終了したらしい。  私はホッと一息ついて、アイスコーヒーのグラスを口に運んだ。  テーブルを挟んで向かい合う和葉は、複雑な家系をバックグラウンドに持つ、見た目は完璧なクールビューティー。一方で、その容姿と裏腹に、アイスクリームに目がない。厳しいことも言うけれど、家族が全員海外にいる私を、同い年ながらそれこそ時には姉のように気遣ってくれる彼女に、私も私の両親も全幅の信頼を寄せている。  ……和葉をあまり心配させないためにも、もう少し、スマートフォンには気を配ろう。
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