67人が本棚に入れています
本棚に追加
1. 失恋
――大切な人を失って、胸にぽっかり穴が空いたようだ。
いつだったか、そんなのことが書かれた恋愛小説を読んだことがある。
その時は、よく分からなかったけど。
「きっと、こういうことなんだろうなあ」
部屋のフローリングに仰向けに寝転がり、窓から青空を見上げる。
胸が痛い。
その痛みに、呼吸すら囚われてしまいそうなくらいに。
とはいえ、そこに物理的に傷があるわけではない。勿論、病気にかかっているわけでもない。
傷ついたのは身体ではない。
心が、痛い。
人間、強すぎるショックを受けると、本当に身体まで痛いのだとこの年齢になって知った。
本当に、胸に黒い穴が空いたような、虚ろな痛み。
恋人と別れた。
有り体に言えば振られた。
年上の彼との始まりは、羽よりも軽かった。そこはかとなく真剣だけど、同年代の恋愛にありがちな、やり直しのきくゲームのような付き合い。
そこから、お互いの家を行き来するようになった頃から急速に仲は深まっていって、約二年。
どこか軽薄な雰囲気を持ちながらも、付き合っていた約二年間、彼は誠実だった。痴話喧嘩はあっても浮気とかはなく、過剰に束縛し合うようなこともなかった。
心のどこかで、このままずっとうまくやっていけるって思っていた。
うまくやっていた。そのハズだった。
それなのに――。
結婚することになったから、もう会わないし連絡も取らない。自宅は引き払う。うちにあった私物は送る。そっちにある俺の荷物は、好きに処分して良いから。
前触れもなく、唐突に送られてきた、たったそれだけのメッセージ。
説明も言い訳も謝罪もない、同時にこちらの言い分の一切をはねつける、事実のみを突きつけた数十字の文字情報。
それで全部終わりになった。
最初のコメントを投稿しよう!