2. 再会

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2. 再会

 自分の大学に行くには少々不便な立地にもかかわらず、私が今のアパートを選んだのにはいくつか理由がある。  その一つが、この地域で一番大きな美術館が徒歩圏内にあることだった。  久々に訪れた美術館の敷地正門前は、特別展目当ての人々で行列ができていた。今回の特別展は、マスコミにも露出の多い人気画家の作品展で、今日が期間最初の休日と言うこともあって大盛況だ。入場制限がかけられているらしく、行列はなかなか前に進まない。  ああいう待ち行列があるから、美術館やテーマパークは嫌だって言ってたっけ。  彼のことが、ちらりと頭をよぎる。その途端、身体の中心を、射抜かれたような痛みが通り過ぎていった。  ……やっぱりやめよう。  大好きな美術館に来たのにこんな気分になるなんて、最悪としか言いようがない。  まぁ、時間もあるし、美術館はここだけではないのだから、久々に電車に乗って、もっと静かな場所にでも行こうか。  そう考えて踵を返そうとした時、私の目の端に飛び込んできたものがあった。  それは、美術館の別棟で開催中の、別の特別展の看板だった。 「姉妹校との交流展」と、それには書かれていた。  ここは、文化芸術分野において世界有数の権威を誇る大学が管理する美術館。常設展用に一つ、特別展用に二つの棟を持つ、この国にしてはかなりの規模だ。その一つで開かれているこの交流展は、大学が世界各地にある姉妹校の収蔵品を展示する場で、毎年開催されていた。  前回は彼と付き合っていたから来られなくて、それですっかり忘れていたのだけれど、今は確かに、交流展が開かれる季節だった。  ただ、テレビCMもなく、広告ポスターにもあまりお目にかかることのない特別展であるためか、こちらには全くと言って良いほど人の流れがない。それとも、今日は休館日だろうか?  別の美術館か、目の前の交流展か。  行き先を決めあぐねて佇む私に、不意に背後から声がかけられた。 「――もしかして、ゼロ?」
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