或る編集長の嘆き

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 榊原は大手出版社編集長にも拘らず何処か冴えない男であった。何処へ飲みに行っても女に持てないのが一因であった。それと言うのもチビ、ハゲ、デブと持てない要素が三拍子そろっているからであった。おまけに酔っ払って家に帰れば、顔を見るだけで反吐が出そうな将又、酔いが一気に醒めてしまいそうな不器量な妻が待っているのであった。これも冴えない一因であった。  今朝なぞも出勤前、妻と息子と三人で朝食を取っていると、何やら息子がぼりぼり頻りに腕を掻いているので、「どうした?痒いのか?」と榊原は訊くと、うんと頷く息子の横で妻が言うにはこうであった。 「すいません。あの実は昨日、子供部屋の網戸に虫除けスプレーを吹き付ける前に網戸を拭いてましたら力が入りすぎたんでしょう、網が枠から外れちゃいましてね、でも直し方が分からないからベープマットを何個もセットすれば大丈夫と思って買って来てセットしてはみたものの、一夜明けてこの子を起こしに行ったら腕に10箇所も虫刺されの跡があったもんですから罪悪感を覚えましてね、全く申し訳ありません」  この妻は不細工な上に玉の輿に乗せてもらったという思いがあるから夫には頭が上がらない為に丁寧語で喋るのは良いが、とてもドジでやることなすこと間抜けでよく謝る憂き目を見るのである。 「何で網戸が壊れたことを俺に言わなかったんだ?」 「随分機嫌悪そうに酔ってらっしゃったから」 「怒られるのが怖かったのか?」 「はい」 「ふん、機嫌悪いのはいつものことだ」このドジ間抜け!いっそのこと殴ってやろうかと思ったが、子供の手前、自重して代わりに叩きつけるように言った。「テープか何かで応急処置すれば良いものを余計な買いもんまでしやがって余計腹立つことになるわい!」 「す、すいません」 「この際だから言っておくけどな、サロン通いも金の浪費になるだけだから止めた方が良いぞ」第一、雌豚に付け睫毛をしたようで滑稽になるだけじゃないかと思ったが、流石にそうは言えずこう言った。「なんだその木に竹を接いだような睫毛は」 「あの、まつエクサロンでやってもらったんですけどいけませんか?」 「いけないどころの騒ぎじゃない。どうせエステシャンに煽てられてその気になったんだろ。ふん、それでその顔でいい気になってんだから世話ねえや」  ひ、酷いと妻は思っても榊原の鬼の形相の前に平伏して口には出せないのであった。
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