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そんなこんなで、客室清掃員と歌うたいを掛け持ちでやって3か月ほど経ったある日、また小山内さんがやってきた。
「素晴らしいです。おふたりの歌、とっても評判いいです。帝王館ホテルで結婚式を挙げたいというカップルも増えました」
どうも私には、それだけのことをやったという実感がないのだけど、小山内さんはべた褒めしてくれた。
そしてこんなことを言い出したのだ。
「今後、帝王館ホテルもネット配信で宣伝を打っていこうと思うんです。おふたりにはぜひ、ホテルのウエディングソングを考えていただいて、歌っていただきたいんです」
私は和江お姉さんの顔をちらっとみた。やはり難色が浮かんでいる。
小山内さんは引き下がらなかった。
「まあ、プランを聞いてください。宣伝は何パターンか撮ろうと思っているんです。そのうちのひとつで、おふたりにウエディングドレスを着ていただいて、バージンロード歩いて指輪の交換をするっていうのをやりたいんです。ミュージカル調に、歌いながら、華やかに」
お姉さんと私は顔を見合わせた。ウエディングドレス? この私たちが?
「あまり予算も掛けられないので、僭越ながら新郎役は僕、小山内と、帝王館ホテルいちのイケメンと言われている安藤という男がいるんですが、そのふたりでいかがかなと思っているんですが。どうでしょう」
私とお姉さんは顔を見合わせたのち
「やります! ぜひやらせてください!」
と答えた。
そんなわけで私たちはいまや、帝王館ホテルのちょっとした顔となったのだ。
《了》
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