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彼は焦りまくって、バスタオルを何枚も取り出して来て妻の頭の下に敷いた。
無論、そんな行為に意味は無い。狼狽してわけの分からない事をしているだけだ。
悲惨な事故を巻き起こした当事者の大多数が絶望と共に懐くに違いない思いを彼も懐いた。これはきっと悪い夢に違いない。夢なら醒めてくれ。・・・・・・神様、神様・・・・・・。
日頃神に祈った事も無い彼であったが、この時はさすがにそう思わずにはいられなかった。
やがて少し落ち着き、警察を呼ぼうか、いっその事妻の後を追おうかなどと考えたが、そう出来ない事情があった。反政府活動家である彼の身辺には非合法な活動を行う仲間がいた。
このまま警察の捜査が開始される事態になれば、その仲間の不都合な情報が警察に渡る危険性が有る。少なくとも、それを片付けるまでは妻の死を漏らすわけには行かない。取り敢えず、死体を隠さなければ。
そういう経緯で、彼はこの場所に車を走らせ、今穴を掘っている。穴は相当な深さになっていた。
彼──恭平は左手にシャベルをぶら下げ、右手の甲で額の汗を拭った。それから、シャベルを穴の外に投げ上げると、そこから這い上がった。
ガンッ、いきなり脳天に衝撃が走り、恭平はつんのめるように俯せに撃ち倒された。
何者かに棒のような物で殴り倒されたらしい。衝撃で意識がしばし素っ飛んでいた。
「こいつもバラして埋めとけば、問題なかろう。」
ズキズキと痛む恭平の頭越しに人の話し声がする。
恭平は両手をついて、頭を持ち上げた。
ガシッと両脇から腕を押さえつけられた。右にも左にも見るからに屈強な男がいた。
「へええ、もう起き上がって来るとは、相当頑丈な頭してんなあ。」
更にもう一人、三人目の男が正面から話しかけて来た。
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