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見るからに酷薄そうな顔の男で薄ら笑いを浮かべているが、笑っているのは顔の皮ばかりで、目は死んだ魚のように感情が無い。ゾッと身震いさせられるような匂いを纏っている。
「あんたはこの後殺しちまうから、何が起こっているのか教えてやろう。見た通り、俺達はその筋の人間だ。組関係のイザコザで出来た死体の後始末にここに来てる。来てみたらびっくり、あんたが先に穴を掘ってる最中じゃないか。しかも俺等と同様。そこの女の死体を埋めるつもりらしい。あんたに恨みは無いが、あんたがサツにパクられてこの場所の事をゲロッっちまったら、俺達は困る。転ばぬ先の杖ってわけだ。悪く思わないでくれ。」
その男は凄むでもなく、事務的な口調で一気に事情を説明した。
それから、いつの間に取り出したのか右手に大振りなナイフの刃をチラつかせながら、
「あんたの乗って来た車のキーはどこに持ってる?」
と質問してきた。
「ズボンの右の尻ポケットだ。」
恭平は一瞬抵抗の意思を見せて口を噤んだが、ナイフを右眼すれすに突き付けられて呻くように言った。
すぐさま左腕を掴んでいる男が恭平のズボンをまさぐってキーを取り出した。
「さてと。」
正面の男は無造作に恭平の髪を左手で掴んで顔を上向かせると、ナイフの刃先を恭平の右首筋に寄せて来た。
「待て。」
と言う間も無く、恭平の右の首筋から左の首筋にかけてひんやりとした痛みが走った。
「さて、さっさと三つとも埋めちまおう。」
喉を切り裂かれて声を上げる事も叶わず、薄れ行く恭平の意識の上をその男の感情のない声が通り過ぎて行った。
これは何かの導きか? 或いはただの偶然か? はたまた悪魔のイタズラか。
恭平と彼の妻は一つ穴に納まった。
いつしか蛙の鳴き声も止んでいた。
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