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抱き合う姫と騎士。敵を倒して、急激に空が晴れて。感極まった姫が彼にキスをする。
決定的瞬間は、魔物の大群にだって負けないあたしを打ちのめすのには十分で。
「幸せそうな顔しちゃって」
そうつぶやくしかなかった。
「エルザー!」
姫が嬉しそうに走ってくる。ああ、ジュリアンの顔の情けないこと。顔に「ごめんな」と書いてある。また殴りたくなる。
ムカつくけど、しょうがない。
愛する騎士の隣にいる――それが姫の一番の幸せなんだから。
姫はあたしに抱きついてきた。ぱっとあたしを見上げた顔は明るく輝いていた。
硝子細工を扱うように、そっと頭を撫でる。金の髪が指の間をすり抜けていく。姫はあたしの手を両手で包み込んだ。
「彼と再会できたのはあなたのおかげよ、エルザ。心から感謝してるわ。決して折れないでいてくれてありがとう」
姫の声があたしを呼ぶ。あたしを褒める。こみ上げるものがあって、でも、あいつの前では泣けない。
「光栄です」そう言うのが精一杯だ。
「で、これからどうする?」
空気を読まないもう1人の騎士が頬をかきながら言う。
「そうね。故郷の聖域を開きにいかなきゃ。それに、脅威が去ったことを星々に伝えてあげたいわ。今も魔王に怯え、不安がっているはずよ。
――ねぇ、この星の代表はどなたかしら」
「えっ」
ジュリアンがきょとんとする。
「星の代表? アメリカ大統領? いや国連のトップとか?」
あっという間に挙動不審になる姫の恋人。気づいたら手が出ていた。
「いてっ」
「しっかりしろ馬鹿」
「エルザったら」と、姫がたしなめる。
「いいんです姫。俺が思いつかないのが悪くて……ええと、どうしよう」
姫は戸惑う恋人を優しく見つめる。彼が居るのが嬉しくてたまらないようだ。
「愛しています」とは言えなくて、胸に秘める。きっとこのまま。貴女はあたしのことを、そんな目で見てはくれない。
千年かけて、また振られて。
でも愛する貴女のことを、あたしは見守り続けたい。
「どこまでもついていきますよ、姫」
心のうちでつぶやく。
失ったもの、奪われた土地、全てはこれからで、魔王との戦いより厳しいものがあるだろう。
それでも。
見上げた空は、どこまでも青かった。
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