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「千年経っても、あたしじゃダメなんですよね」  崩れ落ちた古い石造りの宮殿。玉座の間に置いた棺の前で、あたしはつぶやく。きっと、情けない顔をしている。    故郷から遠く離れた星に流れ着き、追っ手を警戒して移動すること十数回。三十年前から住み着いた宮殿にあたしはいた。床には雨水が溜まったのだろう、ところどころ小さな池ができている。波紋は起きない。崩れた天井から月の光が床に円を描く。  声に答えるものはいない。ここにはあたしの他に、棺の中に横たわる彼女だけ。それも、ずっと眠り続けている。  はぁ、とため息をつく。嫌になる、あたしのこの想い。  やるべきことはわかってる。魔王との戦いに勝利し、世界を救うためにどう動くべきか。  あたしは予言を支える駒であり、決して主人公ではない。冷静に行動しなきゃ。あたしにはその頭も手段も力もある。やれる。それはわかってる。  だけど、駒にだって感情はある。それがたまらなく嫌だ。心なんてなければいいのに。  ふと胸騒ぎを覚え、あたしは棺を背に歩き出す。王の間を抜け、階段を降り、宮殿の入り口へと向かう。ここの天井はとうの昔に崩れたのだろう、吹き抜けた先の夜空に星がきらめいている。  見上げたタイミングを測ったかのように、青い流星が落ちた。  合図だ。方角を確認する。星は極東の国を示した。 ――さて、またあの馬鹿を迎えに行かなきゃ。  空間を歪ませ、宮殿に施した結界を抜ける。石畳の広場には、とっくに枯れ果てた噴水の残骸が打ち捨てられている。横目に通り過ぎる。  この星で一番速い馬が欲しい。そう思って、かざした右手から地面に魔法陣を出す。風が起き、木の葉が舞う。静かだった周囲の森がざわめき始めた。  魔法陣を構成する銀の光がまたたく。魔力を込めるごとに、光がいっそう強くなる。  次の瞬間、何も無い空間に音もなく大型バイクが現れた。新品の漆黒のボディ。偶然この髪、そして服と同じ色だ。  彼女が見たら、似合うと褒めてくれるだろうか。  宮殿を振り返る。返事はない。  バイクに跨り、崩れた門までの道を見据える。エンジンをふかす。 「……あの野郎、今度こそ幸せにしないと許さないからな」  静かだった森に轟音を響かせ、鉄の馬を門へと走らせる。 『()でよ、転移の扉』  言葉と共に、門の位置に光の扉が出現する。開かれた先の、真っ白な異空間へ。  あたしはバイクもろとも突っ込んで行った。
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