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「エルザ!」 「いいからお前は魔王を倒せ!」  ジュリアンに怒鳴った途端、あたしの頬を剣がかすめた。血が流れる。 「どうしました? 腕が落ちたようですねぇ」 「それは貴様だろ」 「ハハハ! 違いない!」  片腕のイアロスは哄笑(こうしょう)する。 「少年が覚醒して、いよいよ貴女の出番はなくなりましたねぇ!」  ぴた、と手が止まる。まさか。 「そうでしょう戦士よ。お前はあの姫に恋焦がれている。予言の仲間外れ」  にやり、と敵は笑う。  知られた。あたしの秘密。あたしの想い。よりにもよってこいつに。 「想いは届かないのに哀れなものですねぇ! 千年! 千年も姫を守っておきながら報われないとは! 哀れ哀れ!」  ゲッゲッゲッ、と魔物たちが嘲笑う。  視界が歪む。全身に満ちた魔力がぐつぐつと沸騰するようだ。余計な力が入る。よくないと分かっているのに。 「愛しの姫様が知ったら、どんな顔をするでしょうねぇ」  にやり、と悪魔は笑う。 「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!」  あらゆる武器を召喚し、攻撃する。笑い声が瞬間移動する。ああ、魔王軍が邪魔だ。視界の端に、叫びながら必死に結界を押し切ろうとしているジュリアンが映る。手には神々しい黄金の大剣。結界にヒビが入りつつあった。  その隙にイアロスは姫に迫っていた。ジュリアンの方に両手を伸ばし、魔力を送り続けている姫。あと数秒もすれば剣先が届いてしまう。  気づいた姫のおびえる表情を、あたしは見た。 ――そんな顔をさせるためにあたしは頑張ってきたんじゃない。貴女の頼もしい守護者であるために、ここにいる!  全てが一瞬で起こった。止めようとする魔王軍を一掃し、翼は光の速さで姫の元へと飛ぶ。背後で、結界の割れる音がした。振り返るイアロス。アサルトナイフが、その首を刈る。 「ばかな……」 「あたしの姫に手を出すな」  イアロスの全身が黒く染まり、消えた。すぐさま姫を残して舞い戻る。  魔王はあの馬鹿にしか倒せない。その他は、あたしが。  雄叫びをあげて駆ける。 「エルザ」  優しい呼びかけに目を開けた。気を失っていたのか。魔王軍は消え失せていた。 「見て」  騎士が、太陽のように眩しい光の剣で、真正面から魔王を切り裂いたところだった。美しい、と思った。一筋の涙が、流れた。  あたしは言った。 「あいつの元に、行ってください」
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