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ゆっくりとマツシタに近付く。人の気配に気付いた彼は振り返り驚いたような顔をした。青白い額の上で風に煽られた前髪が揺れている。マツシタは何も言わなかった。俺は泣きそうになって眼帯を外した。
「ごめんなさい」
声が震える。鼻を啜った。
「マツシタさんを悩ませるようなことした」
「ヤマダ君は悪くないです」とマツシタは言って俯いた。
「受け取った側がどう考えてどう答えるかの問題だから」
俺はマツシタの隣に座った。マツシタがいるというだけで安心する。安心するとだんだん涙が引っ込んでいった。ジャージのポケットからマツシタの携帯電話を出すと、彼はまた驚いたような顔をした。そして「なるほど」と呟いた。
「だからここにいるのがわかったんですね」
「すみませんでした」
俺は携帯電話を差し出し頭を下げた。
「正直、余計なことしやがってって思ってますけど」と言いながらマツシタは携帯電話を受け取った。優しい手つきだった。
「何だろう、少し嬉しい気もする」
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