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リーが連れてきたのは、とても成人男性二人が入るにはハードルの高い雑貨屋だった。入る前から足が止まる。固まるユーインの手を引いたまま、リーは女の子の多いその店に入っていった。
「り……リーさん」
「ん? どうした?」
「あの、こにょ、このお店に何が」
さっきから視線が痛い。凄く見られている感じがある。リーは背もあるから凄く目立つ。
きっと、男二人で何しに来たんだとか思われている。そんな事で顔を上げられずギュッと目を瞑るユーインの頬にそっと、温かな手が触れた。
「すぐ終わるから、顔を上げていてくれ」
凄く優しくて、ゾクゾクする声だった。低くて、いつもみたいに大きな声じゃなくて、囁くように甘くて。
大きくて節のある手がそっと前髪に触れる。長くて顔を隠すみたいな髪を横に流したまま、そこに冷たい物が差し込まれた。
「うん、これがいいな」
「え?」
「鏡、見てみろよ」
促され、小さな鏡を目の前に持ってこられる。そこに映るユーインは女の子みたいだった。
元々肌の色が白く、髪色と合わせて寒々しい印象があった。他人からの視線も怖くて前髪を伸ばして遮って、俯いていたそこにオレンジ色のクロスしたピンが差し込まれている。左側の視界が開けて、表情が見えている。大きな青い目が戸惑いに揺れながら此方を見ている。
「似合うと思う。どうだ?」
「似、合います、か?」
「あぁ、可愛い」
「かわ!」
心臓がドキドキする。肩にさりげなく置かれた手とか、熱とか、声とか。過剰反応に近い感覚に目の前が真っ白になりそうだ。
「ユーイン、いつも顔を隠すだろ? あれ、勿体ないと思っていたんだ」
「でも、僕なんて、べ、別に誰も見、てな……」
「俺が見てるよ」
優しく言われて、優しい眼差しを向けられて、どうしようも無く苦しくなる。この人が好きだと自覚しているから余計に、この優しさが嬉しくて痛い。
「今日だけでも、こうしていてくれないか? 食事の時もこっちのが邪魔にならないだろ?」
「ひっ、ひゃい」
絞り出すような返事はもの凄く震えていた。体は当然震えていた。そして心は完全ノックダウン状態だった。
ピンはリーがプレゼントしてくれた。いつもよりも明るく明快な視界で見る王都はキラキラしている。新雪が積もる道を手を繋いで歩いている。……手?
「ふにゃん!」
「どうした!」
「手! 僕手繋いでる!」
いつからだろう? えっ、いつ? 記憶にない。
焦ってリーを見たら、彼は濃紺の目を驚きに丸くして、その後で楽しそうに笑った。
「おかしな奴だな。手ぐらい平気だろ?」
「平気で、すか? あの恋、人じゃなくても?」
「いいんじゃないか? 仲良しってことだろ?」
「仲、良しぃ……」
頭の上からプスンプスンと音がしそう。仲良し……嬉しい。
自然と顔が熱くなってしまう。開けた視界は顔を隠したくても隠れない。俯いても、繋いでいる手の熱さでばれてしまいそう。
リーはとても優しく笑う。いつもの明朗快活で逞しく、声の大きな彼ではない。労るように柔らかく、声も落としてくれている。
「メシ」
「え?」
「何が食べたい?」
「あ……」
そう、今日は仲直りのランチに来たんだ。
でも、もう仲直りはできていると思う。恥ずかしいけれど繋いだままの手が、そう言っている気がするんだ。
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