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それから何ヶ月か、小さなケンカはあったものの、自分は上手くやってると思っていた。
「おかえり、今日も遅かったね。」
「ああ。」
「・・・どうしたの?最近、元気ないね。」
俺は部屋で玄くんを迎えた。
「そう?気のせいじゃね?俺、風呂入って寝るわ。」
「・・・うん」
俺の横を通り過ぎる玄くんは、以前のように俺の目を見なくなった。
「あのさ、最近どこに行ってるの?こんな遅くまで。」
「なに?なんか疑ってんの?」
威圧的な玄くんの言葉に、俺は少し後ろに下がる。
「じゃあ!言わせてもらうけど、俺は黙ってイイ子ちゃんしてたけど、本当は毎日毎日、本の話ばっかしてたら疲れんのよ。
夜遅いのは、ゲーセンとか遊びにいってるからだし。
あんたに声かけたのも、イイ子ちゃんしてたのも遊び。」
「そんな・・・。でも・・・。」
「なに?じゃあ抱かせてくれんの?」
どんどん攻撃的になる言葉に、俺は溺れそうになった。
「なんでそうなるの!?・・・最初に、そういう、こと、しなくても、いいって言ってたし、君だって本、好きそうだったじゃないか!・・・全部嘘だったの?」
「ああ、そんな事言ったかもな。」
頭をガシガシ掻きながら、俺とは目も合わせずに答える。
「・・・最近冷たいのも、そういうこと?」
「なに、怒ってんの?」
少しあざ笑うかのような声色に、俺は頭に血が上る感覚を覚えた。
「てか、俺、好きって言ってねーよ。付き合いますか?とは言ったけどな。」
「そんなの!言い訳じゃないか!ひどい、だろ・・・。」
涙がどんどん溢れてくる。
「泣くか、怒るかどっちかにしてくんねーかな!あんたのそーゆーとこがめんどくさいんだよ!」
「そんなの!俺だってわかってる!」
「あーめんどくせ。別れようぜ、じゃあな。」
ドアが勢いよく閉まる。
「くっそっ!」
怒り任せに俺はおそろいで買ったマグカップを鏡に投げつけて、その後も、部屋をぐちゃぐちゃにした。
割れた鏡に映った俺の心は真っ黒に濁っていた。
「あーあ、こんな事なら、気持ちに火なんか付けるんじゃなかった・・・。」
その後サイレンが鳴って、割れた鏡の中血だらけで、泣きながら笑っていた俺は病院に運ばれた。
仕事も辞めて1人で生きることにした。心が濁らないように。
戻ることのない『赤煙』
-FIN-
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