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第1話・延長ステイ
タイムリミットまで、もう、あと15分弱。
ヤだな。もうちょっと、こうやってグダグダしてたいのに。チープな薄ムラサキのシーツの上で。ツルツルの生地が汗ばんだ肌に貼りつくのが、なんかちょっとアンニュイな気分で。なんかヘンにヤラシい感じで。カラダの芯がフワつく。
ホリイがマンションで一人暮らし始めてからは、こんなとこ来る機会ぜんぜんなかったし。なんか新鮮だし。ピンク色がかった照明とか。たまたま選んだ有線のチャンネルは、甘ったるいバラードばかり奏でてるし。
隣で目をつぶってるホリイの横顔。切れ長の目尻に落ちるマツ毛の影とか。高い鼻から唇のシャープなラインとか。認めるのはくやしいけど全面的に認めざるを得ない。やっぱカッコいいんだ、こいつ。
ちょっと半びらきの唇。気持ちよさそうな呼吸をスースーもらして。やたらと満足そう。そりゃそうだ。1時間ちょっとで、あんだけイキまくったんだから。オレのナカで。さんざんスキ放題に暴れまくったんだから。
おかげでオレの腰の奥はダルい。めっちゃダルい。腰ってより全身がダルい。
もっとグダグダしてたい。インドア派のくせにイヤミなくらい綺麗に引きしまった筋肉でデコレーションされたホリイの腕に包まれて。もうちょっとだけ。……ううん、できれば朝まで。
カラダの芯に残った熱をこのまま冷ましてしまうのが、なんか、もったいなくて。心地いい気だるさをもてあましたい。もっともっと。ホリイの肌にくるまれながら。
「ホリイ。休憩、あと15分だよ」
オレは、腕マクラの中で寝がえりを打つ。サテンのシーツにホオヅエついて。ホリイのホッペタをつつく。
いつもはスベスベなのに。うっすら脂がテカってる顔。発情したオスの「事後」の肌。大人のオトコの脂をまとって。ホリイのくせに。エロいよ。バカ。
「もうそんな時間……?」
ホリイがマブタを開く。ゆっくりとマタタキをする。2、3度。ボンヤリと横目でこっちを見る。少し下目づかいのときのマブタはハッキリと二重を刻んで。エロさが増す。ホリイなのに。ホリイのくせに。
「……じゃあ、早くシャワー浴びて着替えなきゃだね」
いつもよりさらに間延びした声は、ちょっとタメ息まじり。名残り惜しそうで。ものたりなそうで。だったらそう言えばいいのに。名残り惜しいって。ものたりないって。言ってくれればいいのに。
明日、仕事休みなのにオレ。今夜は帰らなくたって平気なのに。言えばいいのに。もっと一緒にいたいって。まだオレを送って帰りたくないって。言ってくれればいいのに。
けど、でも。ホリイだからしょうがない。
しょうがないから、オレがカマかけてやんなきゃ。しょうがない。
タメ息をこっそり何度かウジウジとついてホリイが体を起こそうとしたから、オレはホリイの胸にすがりつく。
「もう1回。チュー、して。ベッドから出る前に」
もうちょっと甘い声を聞かせてあげてもいいんだけど。オレばっかオネダリしてるみたいで。ちょっとシャクにさわるから。ここはアッサリ言い捨てる。けど、すがりついた指先は手を抜かない。硬く張りつめた筋肉の弾力を思わせぶりになぞってやる。恋愛スキルはオレのが上なんだから。ダンゼン。イニシアチブは譲れねーの。プライドにかけて。
ホリイのノドボトケが分かりやすく上下する。「ゴクリ」とナマツバを飲み込む音は聞こえない。カラカラに乾いてるせいだ、きっと。
「こぐまちゃん……」
抱き寄せる手のぎこちなさが大好き。ぎこちないくせに、あわただしくて。壊れモノに触れるみたいにオズオズと。そのくせ、息が止まるくらいにキツくしめつけてくる。そんなアンバランスさが。大好き。
「こぐまちゃん……可愛い」
探るようにオレの目をのぞきこむときの語尾はウワずってかすれる。必ず。真っすぐ前を見つめてるときのマブタは涼しげな一重だけど。遠慮がちに伏したマブタは、ちょっと影の濃い二重。そのギャップが好き。遠慮がちなのにギラギラ。真っ黒い瞳が今にも食いつきそうに欲情してて。そのギャップが。大好きなんだ。ホリイ。
クチビルを重ねるまでは、ジレったいくらい間があるくせに。
「ん……っ」
……粘膜の湿り気が触れ合った瞬間、ホリイの舌は、飢えたヘビみたいにオレの口の中をむさぼる。めちゃくちゃにカラミついて。吸い付いて。オレの舌を奪う。唾液ごと。ホリイの口の中に奪われる。……あ、ヤバいかも。こいつってば。どんどんキスがうまくなってく。飢えたヘビ。凶暴で柔軟で。変幻自在な毒ヘビ。甘い甘い猛毒がオレの脳ミソをドロドロにとろかそうとする。ヤバい。ダメダメダメ。こんなの。……アセるし。
「んぁ……。ん……っ。ま、待って、……ホリイ」
必死にもがいて、クチビルをズラす。
ホリイは、ひどくセッパツマった目で。オレを無言で責める。なんで?、って。もっともっと奪わせてくれ、って。
ゾクゾクするよ。ホリイ。もっともっと。もっと追いつめてやりたいよ。もっと欲情させたいんだ。おまえを。
「他のとこも。もっと、してよ。チュー」
ブッキラボウに言うのは、あくまでもカケヒキなんだかんな。オレだって、けっこうギリギリ。もうヨユーないんだ全然。だから。早くしてよ、ホリイ。
もう。こらえきれなくて。自分から手を伸ばす。サラサラの黒い髪を指でカキまわしながら頭を引き寄せる。オレの肌に貼り付けさせる。熱い唇を。オレの首に。敏感な鎖骨のクボミに。もっと敏感な胸に。尖った先っぽに。
「っふ……ぁっ……んん」
「ここ気持ちいいの? こぐまちゃん」
いちいち聞くなバカ。その無邪気な不粋さが余計にオレの芯をゾクゾク震わせるって。そんなの知りもしないくせに。ズルいよ、おまえ。
「いい、から……もっと、吸って。いっぱい吸って。そこ」
「ん……」
「はぁ……ん。もっと。……歯、立てても。いい……から。ホリイ……」
好き。好き。好き。こんなとこで感じるなんて知らなかったんだから。ホントに。おまえにヤられる前は。なでられるだけでもくすぐったくて。ムリムリムリって思ってた。こんなとこで感じるの、女のコだけだと思ってた。それなのに。「ちゅっ、ちゅっ」って音たてて吸われるたびに電流が走るみたいに。全身がビリビリって。甘い甘い猛毒が全身をかけめぐる。
ああああああ、もう。ダメダメダメ。指が勝手に。ホリイの髪の毛をグシャグシャにつかんで。もっと、もっと、って。引き寄せちゃうんだ。もっともっと。しゃぶって、しゃぶって、しゃぶって。真っ赤にふくらんだ胸のテッペンがフヤケちゃうくらいに。しゃぶって、ホリイ。気持ちいいんだ。そこ。たまんない。
「こぐまちゃん……もう」
「ん。……もう時間だ。服、着なきゃ」
「でも。ごめん。ボク……もう」
わかってる。さっきからオレの足の間にスリ付けてきてるホリイの。もう硬くなってる。オサマリがつかないんだろ? 5分やそこらの残り時間じゃあ。
「うん。じゃあ……休憩やめて、お泊りにする?」
「いい、の?」
「どうせ休みだし明日。ホリイんちに泊まるかもって。オフクロにゆっておいたし」
「ごめんね。だって。ボク。もっと……こぐまちゃんと。もっと。だって……」
バカ。カンジンなセリフをどうして口ごもるんだよ。いつも。シドロモドロに。バカ。そんなに恥ずかしそうに目を泳がせるから。オレまでホッペタが熱くなるんじゃん。
「ホリイくんのスケベ」
真っ赤っ赤なホリイの顔面にマクラをギュって押しつけてやった。さんざんアオっておいてそりゃないだろうって。我ながら思うけど。
「なあ。一緒にフロ入らねー?」
割れた腹筋の上にブリッジしてるホリイのちんちんのまわりを爪の先でジラシて、オレは聞いた。
「フロって。お風呂?」
よっぽど想定外の言葉だったのか。ホリイは、わざわざ“お”をつけて聞き返す。生殺し状態のムスコをもてあまさせられて、ちょっと息をハァハァさせながら。
バカだな、もう。ホリイ。ムリヤリ押し倒してくれたっていいのに。夜は長いんだから。いくらでもイイワケする時間あげるのに。少しは期待してるのに。たまにはおまえにイニシアチブを握らせてあげてもいいかな、なんて。ちょっとくらい乱暴でも許してあげるのに。たまには。でも、まあ。しょうがないか。ホリイだから。
「泡がブクブク出る入浴剤が洗面所んとこに置いてあったし。一緒に入らね? 泡ブロ」
「ん。……んー」
ホリイは、気乗りしなさそうに。アイマイに鼻を鳴らした。そんなことより一刻も早くコレをどうにかしてくれって。そう言いたいんだろうけど。ダメ。ちゃんと態度に出してくれないから。もうちょっと放置しといてやる。
オクテでウブで鈍感で。でも、チューとエッチのスキルはどんどん上達してく。オレをアセらすくらいに。そういうチグハグさが大好き。
「おフロで。しよ?」
たまには甘ったれた猫ナデ声でアプローチしてやる。肩のキズ跡に、ちゅっ、って。唇を貼り付けながら。
「ボディシャンプーをヌルヌルに塗りたくってさぁ。おフロの中で。エッチ。したくない? ホリイ」
「…………」
ホリイはノドボトケを上下させた。カラカラの唾液をあえがせて。
「じゃあ。ボク、お風呂のお湯入れてくる」
ギクシャクとベッドを降りる。ひどい棒読みのセリフ。大根役者かおまえは。
マッパダカの背中は広くて。ムダのない筋肉で引きしまった逆三角形の長身。見とれるくらいにイケてんのに。フロに入る前からノボセ上がってる足どりはフラフラで。壁づたいにバスルームに向かう。
バカ。おまえって。どうしてそんなに……ああ、もう。くやしいけど。可愛い。めちゃめちゃカッコいいのに。どうしようもなく可愛い。
そういうところが好き。大好き。どうしようもなく。ヤミツキなんだ。ホリイ。
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