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 人生に疲れても、人はその歩みを止めることができない。そして時間が進んでいくたびに、人は歳を取り、身体は衰え、いずれは死んでいく。それは生き物の定めであり、今後も覆る可能性はゼロに近い。  途中で人生を終えるには、命に終止符を打つしかない。逆に言えば、どれだけ苦しくとも、悲しくとも、命さえあれば人生は止まることなく進んでいく。  ただ、僕は人生に疲れたときに、とある場所へ行って人生を『休止』させてもらうことができる。一度人生を止めて、その中で冷静に自分を見つめ直す。いや、もしくは身体的にも精神的にも身体を休めて、再び時間を進める。そんな亜空間がこの世にあることを、とあるマンチカンから教わった。  人は誰にも言えない秘密を一つや二つ抱えて生きているが、僕はまさにその空間の話を自分の最大の秘密にしている。そもそも、誰かに話しても振り向いてもらえる話ではないだろうが。 「猫と話? ジブリじゃあるまいし」  いくら僕が真面目な顔で話をしても、こんな風にテキトーにあしらわれておしまいになるだけだ。僕は傷つくことが好きじゃないから、理解されないくらいなら話さない方がいいと思っている。ときに、人は利他的であることを求められるが、もう一方で利己的になって自分を愛することだって必要だと僕は思っている。  そして僕は今日、その空間で一つの決断を下そうと考えている。人生を進めることしかできないこの世界で、周りの雑音に惑わされないで一人で決める。そのためには、いつものように人生をストップする必要がある。  冴えない天気が人を嘲笑うように、雨を降らし、不快にさせる。昼下がり。僕は一人で上野にある喫茶店、『レストハウス』へと向かう。
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