優しい牙をつきたてて

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 はにかみ笑いを浮かべた私が鏡に映る。  幸せそうに微笑む私は、鳳牙がかわいいと褒めてくれた小さなレースが散りばめられたエンパイアドレスを着て、とても幸せそうだ。まるで、自分じゃないみたい。  結婚ラッシュで置いて行かれる焦燥を抱えてた自分が嘘みたいだ。好きな人の隣で、好きな人のお嫁さんでいられることがこんなに幸せだなんて思いもしなかった。  「ふふっ」  「あら、新婦さん本当に可愛らしい!羨ましいなあ」  私のにやけ顔を見て、スタイリストさんは黄色い声をあげた。  そういうスタイリストさんは、打ち合わせの段階からずっと私のドレスからヘアアレンジの相談を受けてくれていた。いつも必ず私の隣に並んで現れる鳳牙に、「あたしもいとさんのパートナーさんみたいなひとを見つけます!」と意気込んでいらした。  誰かの憧れにわたしのパートナーである鳳牙がなれるなんて、嬉しいことこの上ない。なんていったって、自慢の彼なのだ。  そう話す間にも、私の髪は着々と完成していく。  後ろで編み下ろされた髪。この日のために、しっとりかわいらしく見えるよう、カラーもした。落ち着いたラベンダーカラーをくすませている。ドレスのデザインもあって、ナチュラルなアンティーク感が際立った。ああ、本当に私じゃないみたい。早く鳳牙に見せたいなあ。
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