優しい牙をつきたてて

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 父さんが言い切らないうちに鈍い音。床に跳ね上がり、回転しながら俺の足元に滑り込んできたのは、1つの写真立てだ。  幸せそうに笑ういと。その隣に寄り添うのは、俺と同じ顔の――俺の世界で一人だけだった片割れ。  人差し指にひっかけ、その写真立てを掬い上げる。あーあ。もう、そんな俺に見せたこともない顔するくらいいとのことが好きだったくせに。お前、なにやってんだよ。馬鹿なの?  「優牙くん……。やっぱり、お父さんの言う通りだよ。いとには……本当のことを言うから……」  いとの父親がおずおずと前に出てきてそう口火をきる。きったわりに、全然説得する気がなさそうなのは、一人っ子の愛娘の幸せを誰より願っているからだ。  わかるよ、俺だって、物心つくころからずっといとの傍にいたから。  「本当のことを言って、また錯乱させて精神病院にでもいれるんですか?」  うぐ、と息を飲んだのがわかった。あなた、と父親の腕に手を添えるいとの母親。あなたたちは昔から優しい。いとはもちろん、俺にも鳳牙にも。  「ようやくいとが、俺のことを見てくれたんです。こんなに嬉しいことないっす」
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