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にこっ。
はにかみながら、そうやって微笑んだ。その笑顔は、弟の――鳳牙の笑い方のそれだった。
いとの選んだウエディングドレスもその髪型も、全部が鳳牙の好みだった。昔から、いとはずっと鳳牙しか見ていなかったし、鳳牙もいとしかみてなかった。俺が入り込む隙間もないくらい、ふたりはずっと仲が良くて、本当のパートナーだったと思う。
鳳牙が事故で死んで、俺は家族を失ったショックの前に、いとを巡るライバルが消えたことの方が勝っていた。こんなこと誰にも言えない。家族にも、もちろんいとにも。人間としておかしいって?そんなのわかってるよ。
でもそれが、一番の俺の不幸だって気がついたのは、本当にすぐだった。
鳳牙がいなくなって、いとはおかしくなった。
心が壊れると、人間はこうして堕ちていくのだと知った。それが愛しい人間だったのなら、これほど自分まで苦しいなんて思わなかった。
扉の向こうにいる、いとを想う。
変わらずスタイリストさんと弾んだ会話をしている。支度の時間に終わりが見えているのは、その会話を聞けば明らかだった。
「死んだのは、優牙だから」
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