元カノ襲来しました

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元カノ襲来しました

 それからはじまった、穏やかな、幸福の日々。先のことなど考えず、ただ小さな可愛い恋人と甘いくちづけを繰り返す。  俺の二十九歳の誕生日がやってきて、小さなケーキを買いふたりでお祝いをした。ミカはケーキを食べないので、ふだんより多めに血を吸わせてやる。その後はおなじみの流れに突入した。  やることをひと通りやった後、いつものようにベッドの上でイチャついていると、突然けたたましくドアを叩く音がした。驚いてふたりで飛び起きる。 「……テオ! いるんでしょう? アンナよ! ちょっと開けて!」  何という最悪のタイミングだ。少し前に別れたアンナが、何の前触れもなく嵐のように襲来した。  アンナはムーラン・ルージュの踊り子で、俺より年上の三十一歳。ミカと出会う前に、一年半付き合っていた。  とにかくアンナにこの状況を見られるのはまずい。ミカにはコウモリに化けてもらい、急いでベッドの下に隠した。簡単に話を済ませ、早めに追い返さなくては。  慌てて服を着て、ドカドカと叩かれ続けるドアの前に立った。呼吸を整え、意を決して鍵を開ける。  その途端、アンナが弾丸のような勢いで部屋に飛び込んできた。巻いたブロンドに、切れ長の青い瞳、豊かな胸の谷間。相変わらずド派手な美人だ。 「……どうしたの、突然。何か忘れ物でもあった?」  アンナは俺の部屋をぐるりと見渡し、ケーキの欠片の残る皿を凝視した。 「テオ……あんたひとりで誕生日祝ってたの?」  ギクリとする。どうしてそんなに勘がいいのだろう。女って怖い。 「別にいいだろ。ひとりでケーキ食ったって」  ふうん、とアンナは俺に疑惑の目を向け、ベッドの上にどかりと座り込んだ。  心臓が飛び出しそうになる。お願いやめて、その下にはいま、俺の可愛いコウモリが――!
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