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今日もモンマルトルのキャバレー、ラパン・アジルでの仕事を終え、俺はだらだら自宅へ向かって歩いていた。目指すは自称芸術家の貧乏人ばかりが住む、おんぼろのアパルトマン。
すると突然、細い路地から、ひゅっと小さな黒い影が、弾丸のように目の前を通り過ぎた。そのまま道路を走ってきた馬車の屋根に勢いよくぶつかる。
あっ、っと思ったときにはすでに遅く、その小さな物体は高く宙を舞い、力を失って俺の前の地面に落ちた。
駆け寄ってみると、小さなコウモリだった。あれだけ強くぶつかれば死んだかもしれないと思いながら路上にしゃがみこみ、そのコウモリに顔を近づけた。
コウモリなんてこの世界の嫌われ者だ。不潔で気味が悪く、病と不幸を運んでくる。
だがなぜか目の前に落ちているコウモリが、とても可愛らしく思えた。これほど間近で見るのは初めてだが、漆黒の毛並みはツヤツヤとして、ピンと尖った耳もツンと突き出た小さな鼻も、想像していたよりずっと愛らしかった。
手のひらに乗せると、かすかに、キィィと可愛い声で鳴いた。馬車に当たった衝撃で脳震盪を起こしているだけかもしれない。道路に打ち棄てておいたら誰かに踏まれてしまうかもしれないし、元気になるまで面倒を見てやろう。
そんな気まぐれで、そのコウモリを部屋に持ち帰った。もともと動物好きではあるのだが、田舎からパリに出てきて以来、動物に触れる機会がなかった。
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