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パリの中心で叫びます
それから俺は、本格的に俺の「恋敵」の捜索をはじめた。もし奴がこの街にいるなら、いまも画家として生計を立てている可能性が高い。いつもより早めに起き、仕事に出るまでのあいだ、パリに星の数ほどある画廊や画材屋を、片っ端から潰していく。
人を探しているんだが、オーギュストという名で――もしかしたらいまは違う名を使っている可能性もあるが――俺と似たような背格好だけれど、俺よりずっと品があって、俺の十倍くらいいい男だと、店に入るたびに説明する。その自虐的な説明を口にするたび、ほとほと自分が情けなくなる。
奴を探し出して、いったい俺は何がしたいのだろう。五十年一緒にいて、五十年探し続けて、合計百年も想い続けた男に、こんな俺が太刀打ちできるわけがないのに。
手がかりはなかなか見つからなかった。だが捜索を開始して一ヶ月ほど経った頃、パレ・ロワイヤル(王族の城館の中庭に建てられた商業施設)の中の画廊で、ついに画廊の店主が首を縦に振った。
「ああ、最近ここに出入りしてる男だがね、たぶんその人だと思うよ」
興奮で鳥肌が立った。まさかミカが五十年探し回って見つけられなかった男が、この一ヶ月で見つかるなんて。どうせミカのことだからコウモリの姿で飛び回っているだけで、たいした捜索もできなかったのだろうが。
「連絡先とかわかります? どこに住んでいるかとか」
いやあ、と店主は首を傾げた。
「何だか謎の多い男でねぇ。いつもふらりとやって来ては、上客を捕まえて帰っていく捉え所のない奴でさ。身なりや話し方からすると、貴族みたいな気もするけどね。そうそう、たまに金髪の少年を連れてくるんですよ。孤児だったらしくてね、たまたま縁があって出会ったようで、いま養ってるんだって言ってましたよ」
金髪の、少年だって?
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