パリの中心で叫びます

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 黒いシルクハット、胸元まで垂らした長い黒髪、貴族然とした漆黒のマント。  ごみごみとやかましい雑踏の中にたったひとつ、夜の幻のような黒い影――それが音もなく視界を横切り、またすっと人混みの中に消えた。  たしかに背格好は少し俺に似ているかもしれない。予想通りあいつの方が俺の十倍いい男だけど。 「……ミカ、いまあっちに、いたかもしれない」  ミカがはっと顔を上げる。俺はミカの手を取り、雑踏の中を走り出した。酔っ払いが邪魔で、なかなか前に進めない。その男が横切った場所にたどり着いたときには、すでにその姿はどこにもなかった。 「テオ! どっちの方に行ったの?」 「……えっと、たぶん、こっち!」  ミカの手を引っ張り、左の通路へと走りだす。  あの男の、幽霊や妖精にも近い朧げな存在感を目の当たりにして、熱に浮かされたように足元がふわふわした。幻の生物にようやく会えたという感動に少し遅れて、再び心に迷いが膨らむ。  このままふたりを会わせて本当にいいんだろうか。もしミカが、そのまま奴についていってしまったら――  走りながら、必死でその迷いを振り払う。  ダメだ。ここまで来て余計なことを考えるな! そうなったらそうなったで仕方がないだろ!  建物が途切れ、暗い夜の中庭へと走りだす。立ち止まり、きょろきょろと辺りを見渡すと、整然と立ち並ぶ木立の向こう、闇の中にいっそう黒く、すらりと背の高いシルエットがあった。
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