パリの中心で叫びます

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「――オ、」  おそらく感激のあまり喉が詰まったのだろう。ミカの口から出かかった言葉が、そこで途切れた。  その瞬間、俺たちの目の前を、見知らぬ金髪の少年が小狐のように走り抜けた。 「オーギュ!」  そう呼んだのは、ミカではなくその少年だった。  その呼び声に振り返った男の、端整な顔がやんわりと緩む。男は迎え入れるように黒いマントを広げ、少年はためらいもなくその胸に飛び込んでいった。  マントが閉じられた瞬間、まるで魔術のようにふたりの姿が目の前から消えた。 「――オーギュ!」  ミカの口からようやくその名が出たのは、ふたりが消える瞬間だった。その叫びは愛しい男に届くことなく、夜の闇に吸い込まれて消えた。  俺たちはただ、静かな中庭の中にぼんやり取り残された。  驚いた。あれが瞬間移動というやつなのか。実際この目で見てみても、夢の出来事のように実感がない。  男とともに消えた少年は、画廊の店主が言っていた例の孤児に違いなかった。背丈も髪の色もどことなくミカに似ていた。もしかすると奴は、ミカの面影をあの少年に感じて、手元に引き取ったのかもしれないと思った。  でもそれはミカにとっては残酷な事実だろう。何と声をかければいいかわからず、しばらく隣に立ち尽くしていた。  ようやく決心して、ミカ、と名を呼ぶ。顔を覗き込むと、ミカの大きな青い瞳はふるふると震えていた。手を伸ばし、頭を撫でてやった瞬間、つうっと涙がこぼれ落ちる。 「うわああああぁぁぁぁん!!」  堰を切ったようにミカが大声で泣き出す。悲痛な泣き声が暗い中庭に響き渡った。思わずその身体を抱き寄せ、がしがしと頭を撫でた。
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