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ミカは思い知ったのかもしれない。ようやく再会できたのに、もうそこに自分が戻る場所はないのだと。
あいつはどうしてもっと早く、ミカを見つけてやれなかったんだろう。ずっとひとりきりで、あいつに再会することだけを支えに、ここまで頑張ってきたのに。
わんわんと子どものように泣くミカを、強く胸に抱きしめる。
「……ミカ、一緒に家に帰ろう。いま見たことは、もう忘れような?」
ミカはぐずぐずと鼻をすすりながら、コクコクと頷いた。小さな身体がさらにひとまわり小さく感じる。
「おぶってやろうか? ほら、つかまれ」
中腰になり背中を向けると、ミカは素直に俺の背中に抱きついた。
ミカの冷たい息がうなじにかかる。細い腕がギュッと首に絡みつく。ミカがあまりにも不憫で胸の奥が痛い。
もしミカが俺じゃなくてあの男を選ぶのなら、俺は心から喜んで送り出してやるつもりだった。会えてよかったな、もう二度と離れるな、幸せになれよと、笑顔で手を振って――
いや、嘘だ。そんなことできるわけがない。何の覚悟もできていなかった。ミカを奪われる覚悟も、ミカをそいつから奪う覚悟も。ただミカに悲しい思いをさせて、でもこうなってよかったと思ってしまう、俺は弱くて卑怯者だ。
ずずっとミカが鼻をすする音が、耳元に響く。こんな音まで可愛くて愛おしくて、どうせ手放すことなんてできなかった。
「……テオ。オーギュと一緒にいた子、人間だったよ」
ミカの頼りない声がぽつりと漏れる。
「あの一瞬でわかったの?」
「うん。ヴァンパイアから見れば、自分と同じ種族かどうかなんて一瞬でわかる」
「人間だから、何?」
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