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ミカが俺の肩に顎を乗せる。冷たい頬が耳たぶに触れた。その冷たさが心地いい。
「……ねえ、テオ。さっきはオーギュに再会できた感激で、ちょっといろいろと取り乱しちゃったけどさ……僕ね、オーギュに会えたらちゃんとお別れを言うつもりだったんだよ」
それはどうだろうな。ちょっと強がりを言ってるんじゃないかな。
「ありがとう、オーギュを見つけてくれて。……テオはもうこんな僕に呆れてるんじゃない? もう僕に、愛想尽かしちゃった?」
「……うーん。どっちかと言えば、自分自身に呆れてる」
どういうこと?と、ミカは俺の顔を覗き込んだ。わからなくていいよ。結局ミカのことがどうしようもなく好きなだけ。
「……ミカ、今後のために一応言っとくけど、俺はけっこう嫉妬深いの。だからもう名前間違えないで。あれ、けっこう傷つくから」
「――ご、ごめんっ! あのときは本当にごめんなさい! もう絶対にしないって約束する! 次間違えたら、本当に太陽の下に放り出していいから!」
必死に謝るミカが可愛くてニヤけてしまう。俺も大人げなく虐めすぎた。もう少し心に余裕を持たなければ。
心の中で反省していると、耳元にミカが甘い声で囁いた。
「ねえ、テオ。……帰ったら、あの日の続き、する?」
わぁお。この子ったら見かけによらず、けっこう積極的。
「……ミカがしたいんなら」
「テオはしたくないの?」
うっわぁ。家までまだけっこう距離あるから、そんなに煽られても困っちゃうんですけど。
「……はあぁ。いますぐ家まで瞬間移動できればいいのに。俺もヴァンパイアになろうかなぁ」
ため息まじりに言うと、ミカは笑い声を上げ、背中からぴょんと飛び降りた。
「よぉし、家まで走って帰る!」
「うっそぉ。俺オジサンだから、そんなに早く走れないよ?」
ミカは俺を追い抜かし、パレ・ロワイヤルの回廊をたたたっと走っていく。
そして振り向き、夜の人混みの中、腹の底から叫んだ。
「テオ! 僕、テオが好き! 思ってたよりずっと、テオのことが好きだったー!」
周りの人たちがぎょっとした顔で振り返り、俺たちの顔を交互に確認する。頭からさっと血の気が引いた。
ああもう、この子ったら! パリの中心で愛を叫ばないで!
ミカの手を引っ掴んで走り出す。俺に引っ張られたミカが、きゃらきゃらと笑い声を上げた。
見てろよ。家に帰ったら、たっぷりお仕置きしてやるからな。
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