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「で、今日は何の用? あっ、ごめん。お金の返済ならもう少し待ってくれる? アンテパンダン展が終わったら、少しずつ返すから……」
俺は画材を買うために、ちょこちょこアンナに金を借りていた。絵を描くには金が要る。
絵を描く時間を捻出したいから、これ以上仕事は増やせない。俺のなけなしの給料は家賃と生活費に消えてしまう。
アンナはすっと視線を落とし、もごもごと口籠った。
「……別に、お金のことは、いつでもいいんだけどさ」
何だか少し様子がおかしい。借金の話じゃなけりゃ、いったい何だ。
アンナがちらりと俺を見上げ、そして俺の顔を凝視する。
「テオ、あんた……新しい女ができた?」
すっと血の気が引いた。
うっわぁ。どこから仕入れたんだその情報! いや、わかるぞ。たぶん犯人はあのお喋りなジョルジュだ。ときどきムーラン・ルージュに通っているって言ってたし。
まあ今回は女じゃなくて、可愛い男の子なんですけどね。
「ああー……うん、そだね。……できた、かも?」
そう答えると、アンナが驚愕に目を剥いた。
「……しっんじられない! 何で!? あたしまだテオと別れたつもりないから!」
うっそだろ。何でいまさらそんなことを言い出すのか。
「お前が別れるって言って飛び出して行ったんだろ!? あれが別れじゃなかったら、いったい何なの!?」
「あんなの喧嘩の勢いでしょ! あんたがいつまで経っても結婚に踏み切らないから、あたしだって腹が立って……! でも別に、あんたを嫌いになったわけじゃないし!」
ああもう、女の言うことってつくづく意味がわからない。
「いまさら蒸し返すのやめようよ。俺はあのとき別れたつもりだったし、もうやり直すつもりもないから……」
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