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いつの間にかコウモリの姿から戻り、素っ裸のミカが背後に立っていた。振り向くと、なぜかミカもぽろぽろと涙をこぼしている。
「……うわっ! どうしたの!? ……って俺のせいだよね!? ごめん、ミカ!」
慌てて手を握り締めると、ミカが左右に頭を振る。きれいな涙が床に飛び散った。
「……テオ、あの人帰っちゃったけど、本当にいいの?」
そうだよな、気にするよな。こんな場面をミカに見せるなんて、つくづく俺は最低だ。
「いいんだよ! 俺はちゃんと別れたと思ってたんだから! もうアンナにはこれっぽっちも未練なんてないし!」
でも、とミカはくちびるを噛み締めて顔を上げた。
「……あの人と結婚したら、きっと、幸せになれるよ」
そんなふうに言うミカがあまりにも健気で、腕の中に強く抱きしめた。
「何で? 俺はいまでもミカと一緒にいられて幸せだよ」
腕の中で、ミカがふるふると頭を振る。
「……テオは全然わかってないよ。僕はヴァンパイアで、僕がこのままそばにいたらテオは人間としての暮らしができない。このままずっと、僕をここに隠しておくことができると思う? 僕と一緒にいたら、テオがこの世界から取り残されるんだよ?」
そんな先のことまで、俺は一度も考えたことがなかった。ミカとこのまま暮らし続けるのは、それほど無理なことなのか?
ミカが俺を見上げる。大きな瞳が、青い海のように揺れる。
「……そろそろテオは、昼間の世界に戻った方がいいよ」
その瞬間、腕の中の感触がすっと消えた。そして一匹の小さなコウモリが、ドアの隙間を疾風のように飛び去っていく。
「――ミカ!」
慌てて部屋を飛び出すと、ちょうどコウモリは廊下の窓から外へ飛び出して行くところだった。窓から身を乗り出し、大声で叫ぶ。
「ミカ! 戻れ、ミカ!」
ダメだ、こんなのは絶対にダメだ!!
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