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転がり落ちるように五階分の階段を駆け下りる。外はもう真っ暗だ。どこに行ったかわからない。
「ミカ! ミカ! ミカ! どこだ!」
大声で呼びかけながら、暗い石畳を走り抜ける。
「うるせえ、馬鹿! 夜中だぞ!」
どこかの窓から罵声が降ってくる。
うるせえ! こっちは人生が懸かってんだよ!
ミカの名を叫びながら、モンマルトルの坂道を駆け下りる。
わからない。ミカの行きそうな場所がわからない。こんな自分に嫌気が差す。毎日あれほど一緒にいたのに。
まさかこんなふうに突然、ミカを失う日が来るなんて。
「あああーーーっ!! もうっ!!」
自分が情けなくて苛立ち紛れに叫んだ。
ゆるい坂道を下り、パリの中心へと向かう。パリ一番の繁華街に辿り着き、パッサージュを通り抜け、パレ・ロワイヤルへ。セーヌ川沿いを走り、エッフェル塔のふもとまで行き、凱旋門に到着する。
ミカと散歩をした道を片っ端から辿っていく。だけどあんなに小さいコウモリを見つけられるはずがない。
走りながら、ミカと過ごした日々がぐるぐると頭の中を駆け巡った。
ミカは女じゃないし、人間でもない。結婚もできないし、子どもも作れない。田舎の両親にはずっと迷惑掛けっぱなしで、もしミカを選んだらこの先も親孝行できないと思う。
でももう何も要らない。他人の評価とか、世間体とか、金とか、プライドとか、そんなものぜんぶどうでもいい。
きっといま頃ミカは泣いていると思う。ひとりぼっちで、どこにも行くところがなくて。
ミカが好きだから、ちゃんと幸せにしてやりたい。もう、それだけ。
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