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めでたく絵が売れました
その後、俺が「微睡む大天使ミカエル」と題してアンデパンダン展に出品した絵は、来場者のあいだで軽い波紋を呼んだ。
端的に言えば、公序良俗に反する――つまり宗教画にしてはエロティック過ぎるというのだ。
当然だ。だってあの絵は、俺に抱かれた後ベッドに全裸で横たわるミカに、白い羽を生やしただけなのだから。
この世で一番好きなものを描いた。俺の自慢の最高傑作だ。
売るつもりはなかったが、なぜか物好きな侯爵夫人がその絵をたいそう気に入ってくれ、話し合いの末、冗談かと思うような高値で買い取ってくれた。話を聞いているうちに判明したのだが、どうやらオーギュストの得意客らしい。
この絵の何が気に入ったのかと尋ねると、侯爵夫人はこう言った。
この絵にはあなたの愛があふれているから。それにこの天使、ちょっとオーギュストの弟子に似てるのよね。
きっとあの金髪の少年のことだろう。意外とパリの人間関係は狭いらしい。
絵を売った金で、アンナに借りた金を全額返済した。残りの金で流行最先端の細身のスーツを仕立て、ミカにも王子様然としたフリフリのブラウスと、漆黒のスーツを仕立ててやった。それでもまだ手元には大金が残っている。
必要最低限の荷物――主に札束と画材だが――を旅行鞄に詰め、貴族のような黒いマントを最後に羽織った。
ミカがうっとりとした目で俺に抱きつく。
「ほら、やっぱりよく似合う。かっこいい」
そう言われれば悪い気はしない。俺はその金の巻毛を優しく撫でつけた。
俺はミカとともに生きていくために、自分自身もヴァンパイアにしてもらった。
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