セリヌンティウスは、

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 翌日、約束の三日間のうちの一日目。退屈な牢の中で、セリヌンティウスは物思いにふけっていた。メロスは、無事に村へ着いただろうか。とすれば、今頃式の準備やらをしているところだろうか。そういえば、作品を作りかけのまま残してきてしまった。作り直しかもしれないな……。などと、牢という場にそぐわないのんきなことも考えた。最近はかなり作品にのめりこんでいたから、こんな風に物事をじっくり考えるのは久しぶりだ。いい機会ではないか―――。  つらつらととりとめもないことを考えていると、鉄製の扉が開かれた。そこから、兵士にはさまれたディオニスがゆったりと近づいてくる。セリヌンティウスは硬いベッドに腰かけているので、立っている王はちょうど見下ろす形になる。少しの間そうして見つめ合っていたが、ふいに王が口を開いた。 「哀れなものだな。無二の親友に、逃げるための人質として差し出されるとは」 「いいえ、哀れではありません。彼は嘘をつかない。必ず、約束通り帰ってくるでしょう」 「どうだか」  王はセリヌンティウスを鼻で笑った。そこからは、人を微塵も信じようとしていないことが感じられる。なぜそこまで、と憐みにも寂しさにも悲しさにも似た感情が浮かんだ。王の顔は蒼白で、眉間のしわは刻み込まれたように深い。この王を、そんなに悩ませ苦しませたのは何なのか。王がひと通り言いたいことを言って出ていった後も、セリヌンティウスはしばらく考え込んでいた。そうしてあっという間に夜になり、残りは翌日考えることにして眠りについた。  このときはまだ、信じることの危うさを、理解できていなかった。
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