落とし物

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私が公園を散歩していると、砂場に1つ、鍵が落ちているのを見つけた。 あれ、これ、車の鍵…。 光が反射して、金属の部分がキラリと光った。 これ、拾わないとマズイよね…。 鍵を無くして焦る男性の姿が頭に浮かぶ。 私はかがみ込み、その鍵を丁寧に取り上げ、手にしまい込んだ。 かすかな温かみを感じた。 私はスッと立ち上がり、辺りを見回す。 近くには、家族連れの人たちが数組と、老夫婦がいるだけ。落とし主は見当たらない。私は、その家族連れの主人に、「これ、違いますか?」と尋ねた。「うーん、違いますねぇ」と言うものだから、私はすみません、と言ってその場を離れた。私は、これ、どうしようか、と悩んだ末、ここでしばらく待つことにした。落とし主は、必ず現れるはず・・・。 私はスマホとにらめっこしながら、落とし主が現れるのを待った。 なかなか現れない。 時計の秒針はすでに10回は回っていることだろう。 ああ、もう諦めてどっかにいったんじゃないの? 私はにらめっこに負けてしまったので、視線を子供たちが遊ぶ遊具へと向けた。小さな子達がはしゃぎながら滑り台を楽しんでいる。ジャングルジム、だったかな、それを使って鬼ごっこしている子も。 そのずっと向こうから、男性が走ってくるのが見えた。 遊具の下を覗いたり、辺りを見回したりする彼。 「あのぉーー、すみません、この辺りに、こんな鍵、ありませんでしたか?」 鍵の形を、ジェスチャーで伝えようとする。ジェスチャーで鍵の形を伝えるのには少し無理があるよ…と内心、クスッと笑いながら、私は手にしまい込んだ鍵を彼の前に差し出した。 「これのことですか?」 「はい、これです、これです!どこで見つけられたんですか?」 「そこの砂場に落ちてましたよ」 「ああ、そうですか、、、」 「何で砂場に落ちて…」 私が言い終わる前に、彼が口を開いた。 「あの、少しお時間よろしいですか?」 「…ええ、いいですが」 何の話なのだろう。 「私、バツイチの人間なんです。それで、今日は子供との面会の日だったんです。うちの子…今は縁は切れてますけど、砂場で遊ぶのが好きなんですよ。だから、月に一回、面会の時はこの公園の砂場で遊ぶようにしているんです」 「そうだったんですか」 「さっきまで砂場で遊んでたんですけど、その時に鍵、落としちゃったみたいで」 彼の優しい笑顔が印象的だった。今日が子供との面会の日だったなんて、ね。 何か特別な日に関われた気がして、少し嬉しかった。 「あ、そうだ、鍵、渡してなかったですね、どうぞ」 「すみませんね、ありがとうございます」 それではこのへんで失礼します、と言うと、彼は小走りに駐車場に走っていった。なんで小走りなんだろうね…。 鍵を無事に落とし主に渡し終えた私は、公園の入口の門を出て、帰路についた。帰路、というか、散歩道。ただの散歩のはずだったのに、鍵を拾っただけだったのに、今日はちょっぴり幸せ。 「落とし物」って、人と人をつなぐ架け橋なのかもしれない。
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