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「よう、ここは初めてか?」
一人の男がどこからかやってきた。
僕よりは何個か年上だろう。
「そうですが」
「君も感情を捨てに来たのか?」
「感情を捨てる?ここは工場ではないんですか?」
「ただの工場ではない。スチールジャングルだ。ここにいるものは感情が無い。一年も過ごせば完全に感情とお別れできるだろう。そういう場所さ。便利だろ?君もきっとそれを望んでいるからここにたどり着いたんじゃないかな」
たしかに僕は感情を持つことが面倒になっているのかもしれない。
「そうかもしれませんね。あなたもですか?」
「おれは少し違うな。眠る場所を求めて来たんだ」
「眠る場所なんてどこにでもあるでしょう」
「いろんな場所で眠ることで、眠るということを一種のアトラクションとして楽しむことが出来る。眠ることを休むことではなくて、趣味としているのさ。スポーツや、喫茶店で本を読むことと同じようにね。おれの一番の楽しみは寝ることだ」
「今までどんなところで寝てきたんですか?」
「山や海、木の上や土の中とか。かと言って自然の中に限っている訳ではなくて、ホテルや見ず知らずの人の家とかも充分に楽んできた。だからここでも眠りたいのさ」
「感情を無くしてまで?」
「まあ、まだ無くしていないからな。有るうちに帰ることもあるかもしれない。君もまだ帰るか決まってないのか?」
「そうですね」
「じゃあ決まるまでおれのうちにいればいいよ。着いてきな」
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