おやすみ

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 僕らは細い道を抜け、手すりのない螺旋階段を登り、直角に曲がったトンネルをくぐり、梯子を登り、もう来た道を戻ることは不可能になったころに彼の自宅に着き、用具箱のような細いアルミの扉を開く。  入ってみると部屋のまわりは大小の金属パイプが所狭しと囲んでいる。と言うよりもパイプが部屋を作っているようにも見え、機械でできたクジラに飲み込まれたような気分になる。  広さは縦に一・五畳くらいで、カーテンの向こうにも同じ広さの部屋がある。手前の部屋には小さなキッチンが備え付けてある。  床は工事現場の足場のように金属が網のようになっていて、どちらかといえば部屋とはいえないかもしれない。網の上には座布団が何枚か敷いてある。  パイプの間からの光だけが部屋に明るさをもたらす。寒い日だと隙間風が入ってきてストーブをつけても意味が無くなってしまいそうだ。 「ここは寒くも暑くもならない。そういう場所だ。トイレと風呂と洗濯機は共同だ。まあ今のところおれら以外は使ってないけどな。おれは眠るときはここから出ていくからさ、好きに使ってくれ」 「食べ物はどうしているんですか?」 「働くまでは食堂でタダだ。感情が完全に抜けたら強制的に働かされる。でも何にも思わない。感情が無いからな」
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