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向こう側の部屋には何も入っていない鳥籠が置いてあった。
「何故何も入っていない鳥籠なんてあるんですか?」
「生き物が好きなんだな。でも持ち歩くのは大変だろ?それに死んだときに悲しい。だから想像するんだよ。色や大きさ、鳴き声なども想像できるが、そのような実態を思い浮かべる必要もない。そこに鳥がいると思うだけでいい。それだけで満足できることもある」
「なぜ鳥なんですか?」
「1番想像しやすいのが鳥だ。なぜなら鳥籠が存在するからだ。その動物が入っている場所というのは中身を想像させる。でも他の動物はどうだ?金魚鉢だったら、もしかすると花瓶に見えるかもしれないし、持ち運びに不便だ。犬籠や猫籠なんてのもない。ケースならあるかもしれないが、どんな生き物でも通用するようなケースだろう。すぐに見て鳥専用だと分かるのが鳥籠だ。だから鳥籠は完璧なんだよ」
「そうですか」
「まあここにずっといればそんな感情もなくなるんだろうけどな」
やがて日は落ち工場のライトがいたるところで点き始め、その光は思ったよりも強く、小さな隙間だけのこの部屋でも真っ暗にはならない。ライトの色は白だけではなく、青や緑、紫などがあるが、なぜ色を変えなくてはならないのか僕には分からない。でも何色ものライトがあちこちで輝く。
「じゃあおれは眠りに出かけるから。おやすみ」
「おやすみ」
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