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 そして、そこそこ難易度の高い嘘をつくなら、友達の前でつくと決めていた。 「ヨウスケ、小学校の頃のさ、あの日のこと覚えてるか?」  ほら、今も。  しみじみとした口調で、僕は友達に仕掛けていく。  あの日がどの日でも、構わない。近所であった祭りの日でもよかったし、初めて家に泊まりに行った日でもよかった。……大事なのは、三年ぐらい記憶を遡らなきゃいけないような出来事を取り上げることだった。 「村田と散々遊んだのに、まだ遊び足りなくてさ、僕たち、あの後ザリガニ釣りに行ったよね」  ……そして、元々の記憶に勝手にエピソードを付け足して、それっぽく話す。ザリガニ釣りじゃなくても、「一緒にスイカ食ったよな」とか「その時見た映画、めちゃめちゃ面白かったよ」とか。一文で終わるエピソードを元々の記憶に勝手に混ぜて、しれっと話すのだ。  そして、嘘を言い終わった後は、じっと相手の顔を見てどんな反応をするのかチェックした。  ……正直、勝敗は五分五分といった所だ。 「えー、そうだっけか? 全然覚えてねーや。つか、前々から思ってたけど、夢島の記憶力ってすごいよな」  ただ、……今日の所は僕の勝ちだった。  口元が緩みすぎるのには気を付けながら、僕はヨウスケににこりと笑いかけた。 「そうかな? 普通だと思うけど」 「そんなことないって。すげえ特技だと思うよ、それ」  やけに記憶力の良い奴なんかは「誰かの話と混ざってねえ?」と指摘してしてくる場合もあった。でも、今みたいに「へえ、そんなこともあったかもしれないなあ」なんて感心してくる奴なんかもいる。 (勝った。)  そういった反応をもらえた時、僕は内心鼻を膨らませて笑った。  父さんとは違って100パーセント騙せるとは限らない……この、どっちに転ぶか分からない感覚が、たまらなく面白かった。
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