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 ……そう。  ――僕の嘘のつき方は、一リットルの水に一滴の血を混ぜるようなものだったのだ。  透明な水の上で、指を突き出す。  指を小さな針でツンと突き刺して、小さな赤をぷっくりと浮きあがらせる。  そして、ふん、と一滴だけ透明の中に赤を放る。  それから、スプーンでも持ってきて、赤が混じった水をぐるぐるぐるぐるかき回すのだ。  そうしてしまえば、一滴だけの赤は透明に混じっていく。  何食わぬ顔で、その一リットルの水を人に見せる。  ……反応は人によって違った。  素通りする人、何も考えずに水だと認識する人、少し匂いが変だぞと勘づく人、そもそも見せられた水に興味を持てない人……。  色んな反応があった。  新しい反応を発見する度に、なんだか楽しくなった。嘘を楽しむ自分がどんどん「悪い奴」になっている感じにもなって、「これが『闇落ち』ってやつかな」と余計に愉快になったりして。  悪ぶりたかったんだ。本当に。  ちょっとおバカに見えるかもしれないけれど、それでも、……どうしても。
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