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「ウッキー、ノート貸してよ~」
……ふと、視界の端で、紺色の塊がバタバタと動くのが見えた。
ブレザーの後ろ姿だった。しかも、女子の。
女子たちのグループが、一つの机を囲んで何やらきゃあきゃあ騒いでいる。
その針みたいな甲高い声が、きいん、と僕の鼓膜を震わせた。
顔をしかめてしまいそうになったけれど、すぐ隣にはまだヨウスケが立っていたから、なんとか我慢する。
「あ、うん。いいよ」
きいん、きいん、……と高く騒がしい声たちの間を、しっとりと低い声がゆるゆると通っていくのが聞こえた。
しっとりと低い、とは言っても、男子のそれよりいくらか高い声ではあったのだけれど……うちのクラスの女子たちの中では一番声が低いんじゃないかなと思う。
「まーた、古屋さん頼みにしてんのか。女子たちは~」
ヨウスケが、呆れたような声を出した。
そんなヨウスケにつられるようにして、視界の端にぼんやり見えていた女子グループの方へと……僕はゆっくり目を向けた。
囲われたその机の、その中心に、困ったような雰囲気を漂わせながら……その女子生徒は座っていた。
「わたしのノートでよかったら、見ていいよ。はい、順番にまわしていって」
やっぱり、ちょっと声が低めだよな。
……と、僕はまた頭の中で思った。
ウッキー。……本名・古屋卯生子。
卯生子だから、「ウッキー」。安直だなと思うし、女の子でそれはどうなんだろうと一瞬考えはしたけれど、本人が特に何も言っていない様子だし、気にしないことにしている。
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