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 一時間目の授業は、八時四十五分から。  でも、八時三十五分から朝礼があってそこで出欠確認なんかもあるので、大体の生徒は八時二十五分くらいには教室に入ってきて席に座っている。  遅刻常習犯だったり、時間ギリギリに教室に駆け込んでくる奴なんかもいたけれど……僕は、そういうのが似合う雰囲気の奴ではないから、普通に、八時二十五分に教室に入るようにしていた。  むしろ、きっかり二十五分に教室の扉を開くというのが、僕のちょっとした楽しみだったりもする。  そんなわけで、僕は、いつも通りの時間に扉をガラリと開き、黒板の上にある時計を確認して、「今日もピッタリだな」と内心笑っていた。  いつも通り、というのは心を落ち着かせてくれる。 「おはよっ。ねえねえ、昨日のテレビ見たー?」 「あ、髪型変えた? かわいいね」 「なあ、今日の部活の練習メニュー聞いたか?」 「また小テストで赤点取ったんだけど……」 「先生に放課後呼び出された~」  朝礼前の束の間の空白は、みんなをざわつかせる。  これも、いつも通りの光景だ。安心する。落ち着く。  僕は小さく鼻息を歌いながら、くたびれた木目が特徴の机に自分の荷物が詰まったリュックサックをどさりと置いた。  このタイミングで、後ろから強く肩を叩かれる。  ……これも、いつも通りのタイミングだった。 「夢島! おはよ」  ヨウスケ――本名・田島(たじま)陽介(ようすけ)――が、楽しそうに僕の後ろで笑っていた。  こいつは、とにかく豪快にガハガハ笑う。口の奥ののどちんこまで丸見えになるぐらい、口を縦にも横にも大きく広げて笑顔を作るのだ。  いつも通りの笑い方だ。  僕は、ヨウスケに向かって、にっこり、口角を持ち上げた。 「おはよう」  そしてそこで……小さく唇を舐め、ヨウスケに向かって薄く口を開いて言葉を投げかける。 「ちょっとど忘れしたから聞くんだけど……」 「うん? なになに?」  ヨウスケが、いかにも人のよさそうな眉毛を大きく上へあげる。小麦色の広いおでこに、一本だけ、薄く皺が寄る。 「今日の五時間目の科目って……なんだっけ?」 「五時間目?」  ぱっ、ぱっ、とヨウスケが素早く瞬きをする。瞬きをしたそのすぐ後、ヨウスケは勢いよく口をがっばと開けて僕の質問に答えた。 「数学!!」  僕の口角が、ちょっと、上へあがるのが分かった。  朝からしっかり嘘がつけた僕は、「いつも通り」、調子が良い。
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