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――僕の嘘のつき方は、一リットルの水に一滴の血を混ぜるようなものだった。
手順は簡単。そして、単純だった。あとは、これを毎日継続して繰り返すだけだ。
例えば、朝の玄関での嘘の話でいくと。
「今日の五時間目、体育なんだよね」の文の、「五時間目」と「体育」の部分は正直何でもいいのだ。こだわる必要のない箇所だ。
だから、日によって「音楽」だったり「国語」だったり「社会」だったりする。「一時間目」だったり「三時間目」だったりする。この部分をこだわらないことで、かえって、話題の幅が広がるのだ。
で、話題の幅を広げた後は……ちゃんと、「嘘をつく」こと。
ここでキモとなってくるのは、(まあ分かるとは思うけれど)「本当に行われる科目を言わないこと」だ。
話題の幅を広げつつ、嘘をしっかりとつきつつ……僕は自由に調整しながら、僕はべらべらと話した。
父さん相手に、この手の嘘がバレたことはない。
子どもの時間割をいちいちチェックするようなマメな性格ではないからだ。
なんなら、時間割どころか僕の交友関係もいまいち把握できていないような節もあった。
以前、父さん相手に友達と遊んだ話をしたことがあったけれど……あれもほとんどが嘘ばっかりだった。
本当は「斎藤くん」と野球をしたのに「田中くん」と野球をしたことにしたり、駄菓子屋で「ポテチ」を買ったけど「ラムネ」を買ったことにしたり、明日「駅前」で待ち合わせをしているんだと楽しそうに言いながら本当は「学校の校門前」の待ち合わせだったりした。
ちなみに、僕の友達に斎藤くんなんて男の子は存在しない。
それでも、この嘘も、バレなかった。
父さんには、「僕を疑う」という選択肢が最初からないのだと思う。
いや、それとも僕のことなんて……なんて、考えてしまう日もあるけれど、そんなことをグダグダ考えるだけ無駄だ。
どのみち、父さんは僕の話した内容を聞いた先からするするとその脳みそから追い出しちゃうんだから。そんな感じの話の聞き方なのだから。
追い出されてしまうのなら、好き勝手に嘘をつけばいいじゃないか。
そういう考えの元、僕は父さんの前で軽率に嘘をついた。
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