【映画評】「白バラの祈り ゾフィー・ショル最期の日々」

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●2005年・独・120分 ●監督 マルク・ローレムント ●キャスト   ユリア・イェンチ(ゾフィー・ショル)  ファビアン・ヒリンシス(ハンス・ショル)  アレクサンダー・ヘルト(ゲシュタポの尋問官/ロベルト・モーア刑事)  他 【感想】  日本での上映時に映画館で鑑賞した。  上映が終わると、私は傍らのパートナーに「期待値より高かった」とややそっけなく感想を述べた。けれど胸の中は、締め付けられるような深い感動に満ちていた。  信念を持って生きる人間の崇高さ。……言葉にすると何とも陳腐な表現になってしまう。わが表現力の欠如よ。しかし、人間の崇高さを、信念を貫く美しさをこれほど正面切って描き上げた作品は、映画に限らず文学においても決して多くはない。そんな稀有な作品だ。この映画に出会えたことを、私は幸せに思う。  まったく無駄のない画面構成・演出によって、終始張り詰めた精神的極限がひりひりと伝わってくる。そして決して屈することのない主人公、ゾフィー・ショルの凛とした魂の美しさ。演じたユリア・イェンチの卓抜した演技力、いや演技とは思えないほどの確信を込めた言葉のすべてが胸を打つ。  ナチス・ドイツの支配下で、戦争反対・打倒ヒトラーを訴えた「白バラ」抵抗運動の若きメンバーたち。ドイツの敗色濃厚となっていた1943年2月、ゾフィー・ショルは兄のハンス・ショル、仲間のクリストフとともに大学構内へのビラ配布を決行しゲシュタポに捕らえられる。この映画はそのシーンから始まり、人民法廷で「大逆罪」の判決を受けて即日処刑されるまでのわずか5日間の日々を描く。  圧巻はゲシュタポの尋問官、ロベルト・モーア刑事とゾフィーが対峙する尋問のシーン。戦後長らくゾフィーが捕らえられてからの時間はドイツ(西ドイツ)では謎のままだったという。しかし1990年代になって、旧東ドイツで発見された尋問記録が公にされ、その間のありさまを人々は知ることとなった。  本作では、ほぼ忠実にこの尋問記録を再現しているという。そうであるがゆえなおさらに、死を覚悟しながら自らの信念を尋問官に向かって毅然と主張するゾフィーの姿は限りなく尊い。そして繰り返しになるが、ユリア・イェンチはまるでゾフィーになり替わったかのように、その魂の最期の輝きを体現するのだ。  ラスト、断頭台に首を入れるゾフィー。その最期の表情。  観ている自分の心まで、引き裂かれるような心地だった。むごい。尊く、美しいものが無惨に散らされていくやるせなさ。涙も出なかった。ただ茫然と、エンディングに流れる、実際の「白バラ」のメンバーたちの写真を眺めていた。ゾフィー、享年21歳。 2dc5faa2-87c6-43f0-9a50-2444a2196750大学構内でのビラ撒きのシーン。36a35b50-5df4-4372-b56a-a8c7854e72bae414ff3e-1c87-4df3-b084-68b5ee84dd51人民法廷のシーン。47a0a812-632d-492d-a6eb-3bde93361241処刑の直前、抱き合う3人。ca9bf586-2a2f-46da-9b5c-eeb04d9e4442「太陽は輝き続ける」2cf2e902-4632-4286-ae65-fca4853e52c2最期の表情。10d56632-e6ef-4594-bb58-1590ce26d124実際の「白バラ」のメンバーたち。
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