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いろいろと話をして、ふたりは今夜の宿も決まっていないようだったので、俺達が泊まっているキャラバンサライに泊まってもらうことにした。
キャラバンサライの管理人はすこし渋い顔をしたけれども、一泊だけだというのと、なにより俺達が明日の朝にはあのふたりと一緒にこの街を出るからということで、宿泊を許可してくれた。
夕食の前、礼拝の時間を知らせる鐘が鳴る。俺達は敷物を敷いてその上で聖地の方角を向いて祈りをあげた。あのふたりはその間、ずっと不思議そうな顔で俺達のことを見ていた。
あのふたりはなぜ礼拝をしないのだろうと思ったけれども、そもそも礼拝も強制するものではない。礼拝はした方がいいとは思うけれども。
礼拝が終わって夕食を済ませた後、キャラバンサライの部屋の中で、仲間のひとりがギジャクを取りだした。ギジャクの柄に張られた弦を指で押さえて、もう片方の手で持った弓で弾く。すると、大柄な男の方が嬉しそうな顔をしてフィドルを取りだして軽く弾いた。
「やるか?」
「イイ」
そうして、仲間と男との演奏がはじまる。どちらも即興で弾いているのだろう。聴き慣れた調子の音階と聴き慣れない調子の音階が混じり合う。けれどもそれは不快ではなくて、心地いいものだった。
演奏が終わり夜眠る前、あのふたりはビーズが連なった輪っかを取りだして、それを手繰ってぶつぶつとなにか呟いていた。なにをしているのかはわからなかったけれども、あのふたりの習慣かなにかだろう。
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